DNPとエイジェックが目指す、未来の行政サービス:「メタバース役所」【後編】
- 行政DXを推進している自治体や事業者・団体
- XR(クロスリアリティ)やメタバースの活用や 開発を検討している 事業者・団体
- オンラインを活用した体験型機能/サービスの開発に関心のある 事業者・団体
- 多言語対応、AI活用などで 利便性向上を実現するサービスを開発している 事業者・団体
オンラインのメタバース空間上で住民の方が行政サービスを受けられる、「メタバース役所」サービス。DNPが提供しているこのサービスでは、株式会社エイジェックとタッグを組み、住民の方とコミュニケーション窓口や交流会のファシリテートなどの業務でご協力をいただいています。
今回は、エイジェック社 小池さまをお招きし、メタバース役所を担当するDNP 山川と、両社連携までの背景や、提供サービスへの反応や今後の展望などを対談しました。本記事では、インタビューの後半をお届けします!
▼インタビューの前編はこちらから
<目次>
- 多様なユーザーによるコミュニケーション手法の幅広さを実感
- メタバース役所には欠かせない、「交流会」の中での発見
- 「ソフト」と「ハード」の両軸で、未来の行政サービスをブラッシュアップしていく
多様なユーザーによるコミュニケーション手法の幅広さを実感
―メタバース空間を利用した実際のユーザーの反応はいかがでしたか?
<小池>
シニア世代の方は、比較的音声でのコミュニケーションが多い印象でした。デバイスにテキストを入力するよりも、直接話すほうが好まれているようです。対照的に、若い世代の方はスマートフォンやゲームの利用で、仮想空間の操作に慣れている背景もあり、すぐに適応している印象がありました。
あるときは、学齢期ほどと思われるお子さんたちが、別の場所で操作している友達とメタバース空間上で待ち合わせをして遊んでいる様子も見られました。
<山川>
お子さんの操作は、大人が思いつかないような動きをするので、とても新鮮でしたね!
<小池>
そうですね、大人のアバターの真後ろや正面にピッタリくっついたり、普通登らないようなところに立っていたりもして、まるで公園のように自由に駆け抜けているようでした。(笑)
―実際に、幅広い世代の方が「メタバース役所」を利用されていたんですね。
<小池>
はい。他にも、音声や言葉が発せない状況の方もいらっしゃって、そういった方はテキストを中心にお話されていました。実際の役所の窓口では、筆談対応もありますが、難しい部分もあるので、「メタバース役所」上で発声のできない状況や事情を持つ方の利用もフォローでき、利用者のすそ野の広がりを感じました。
メタバース役所には欠かせない、「交流会」の中での発見
―「メタバース役所」の中では「相談」だけでなく「交流」も重視しているかと思いますが、実際に「交流」の文脈ではユーザーはどのような利用をされていましたか?
<山川>
桑名市での2月の実証事業では、全11回の「交流会」と呼ばれるメタバース空間上のイベントを開催して、延べ約110名のユーザーに参加いただきました。
交流会企画は、「ひとり親世帯向け・子育て世帯向けイベント」を中心に準備を進めていましたが、桑名市職員の方の企画による「職員採用説明会」や、桑名市の住民の方の持ち込み企画で「別地域の児童館の交流会」を実施した回もありました。
―「交流会」の中で工夫した点や発見はありましたか?
<小池>
交流会の中には、過去エイジェックで実施していた福祉関連のセミナー内容を活用して、前半セミナー・後半交流会という構成で実施した回がありました。前半のセミナーでは、ライフプラン設計や資格取得などの身近で役立つ情報をインプットしたのち、そのテーマについて市民同士で意見交換するという形式をとったのですが、共通の話題となる情報をお渡しすることで、顔が見えないなかでも市民同士で音声やチャットで活発に発話がする流れが生まれていました。
<山川>
桑名市の職員の方からは、この実証事業において「市民の行政に対する参画意識の向上につながる可能性を感じる」というお声をいただきました。
もともと、桑名市の職員の方からは「全員参加型行政を実現したい」という想いについて伺っていました。そのため、「メタバース役所」の実証事業の取り組みを進める中で、「相談」機能はもちろんのこと、同様に「交流」機能も重要という位置づけで考えていました。
「メタバース役所」は、時間や場所の制約を受けずに、リアルに近い行動や会話ができることから、市民同士、あるいは市民と職員との距離がより近づき、コミュニケーションがさらに活性化するのではないか……といった評価やコメントもいただきまして、非常にありがたかったですね。
「ソフト」と「ハード」の両軸で、未来の行政サービスをブラッシュアップしていく
―実証事業を終えて、「メタバース役所」の取り組みをどう感じましたか?
<小池>
今回の実証事業で、「時間・場所の制約を受けない」というメタバースならではの利点が、ユーザーだけでなく運営側・行政側の人材活用の面で大きな可能性があると思いました。
例えば、基本的に窓口業務への人材の配置、住んでいる地域と役所までの通勤距離や、長時間の窓口対応が体力的に可能かどうかを考慮する必要がありました。「メタバース役所」の場合は、自宅からでも業務ができるので、遠方に住んでいる知見のあるスタッフや、経験値の高いベテラン・シニアのスタッフを採用することができます。
メタバース役所では、行政のDX化だけでなく、提供する側としても全国にいる高いスキルを持った人材を活用でき、サービスの質の向上と、雇用における障壁の軽減につながると考えています。
―「メタバース役所」において、運用面で引き続き取り組みたいことがあれば教えてください。
<小池>
現在、自治体ごとに新しい時代や動向に向けた施策の改善について、エイジェック宛にさまざまなお声を寄せていただいている状況です。自治体ならではの特徴として、他の自治体が取り組んでいることを参考にされるケースも多くあるため、現在エイジェックが窓口受託業務を実施している自治体を起点に現場の困りごとを収集し、反映することができれば、「より多くの自治体が求めているサービス」が創出できるのではと考えています。
そこへ向けて、まずは今回の実証事業で得られた成功例や改善点をきちんととりまとめ、「メタバース役所」での窓口対応の流れをマニュアル化しておくことで、次の取り組みを進めるごとに、運用面・コミュニケーション面でサービスのブラッシュアップをしていければと考えています。
―では、DNPは今後どのように「メタバース役所」を発展させていくのでしょうか。
<山川>
DNPとしては、「役所の持つ機能の高度化」というテーマで、2つの方向で成長をさせていきたいと考えています。
まず一つは、例えば「マイナンバーを活用した公的な個人認証」が「メタバース役所」に組み込まれることを構想しています。これにより、「メタバース役所」内で電子申請を完結させることや、相談の履歴を残しておけることで、継続した利用にも対応できるということも実現できたらと思っています。
二つ目は、「AIを活用した窓口の24時間対応」です。
今回は、エイジェックのスタッフの方によるオペレーションを組んでいたため、営業時間が自ずと限られる形になっていました。そこで、早朝や深夜の時間帯はAIによる一次対応・回答ができるようになれば、「24時間 開庁している役所」も実現できるので、そういった取り組みを進めていきたいです。
将来的には、こうした高度な機能が実装されることで、行政サービスに欠かせない「インフラ」として「メタバース役所」サービスを位置付けることもできるのではと考えています。
また、例えば災害時に役所の建物などが損壊したとしても、「メタバース役所」を活用して、住民の方も職員の方もメタバース空間に集うことができたとしたら、どうでしょうか。住民の方は補助金の申請などの行政サービスを受けることもでき、職員の方も安全な場所から、行政サービスを停止させずに対応を行うことが可能になると思います。
こうした、社会で求められる「インフラ」としての姿を目指していけるよう、DNPのつくる「ハード」面と、エイジェックによる「ソフト」面の両面で、「メタバース役所」がいつでも・だれでも・より便利に使えるサービスへ育てていけたらと考えています。
小池さま、山川さんありがとうございました!
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今後も進化する「メタバース役所」について、定期的に記事を発信していきます。引き続きお楽しみに!
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