DNPとエイジェックが目指す、未来の行政サービス:「メタバース役所」【前編】

- 行政DXを推進している自治体や事業者・団体
- XR(クロスリアリティ)やメタバースの活用や 開発を検討している 事業者・団体
- オンラインを活用した体験型機能/サービスの開発に関心のある 事業者・団体
- 多言語対応、AI活用などで 利便性向上を実現するサービスを開発している 事業者・団体
オンラインのメタバース空間上で住民の方が行政サービスを受けられる、「メタバース役所」サービス。DNPが提供しているこのサービスでは、株式会社エイジェックとタッグを組み、住民の方とコミュニケーション窓口や交流会のファシリテートなどの業務で連携しています。
今回は、エイジェック社 小池さまをお招きし、メタバース役所を担当するDNP 山川と、両社連携までの背景や、提供サービスへの反応や今後の展望などを対談しました。本記事では、インタビューの前半をお届けします!
<目次>
- バーチャル空間だからこそ、さまざまな制約を乗り越えられる「メタバース役所」
- 桑名市・エイジェック・DNP、3者の共創が開発のカギ
- 没入感のあるUIですっかり「自分の分身」に

バーチャル空間だからこそ、さまざまな制約を乗り越えられる「メタバース役所」
―まず、DNPが提供する「メタバース役所」というサービスについて、具体的にどのようなものか教えてください。
<山川>
「メタバース役所」とは、自治体が住民向けに提供している「各種相談窓口」、「電子申請のサポート」、そして「市民同士の交流」を、オンラインのメタバース空間上で提供するサービスです。
例えば、距離などの物理的な制約、時間の制約、心理的な制約などによって、リアルの役所で提供されている制度やサービスを受けることが難しい方も、中にはいらっしゃるかと思います。そんな住民の皆さんに寄り添い、だれでも、どこからでも、いつでも、行政サービスを受けられる選択肢を用意できるというのが、この「メタバース役所」の大きなメリットだと思っています。
先日2024年2月には、桑名市と実証実験をさせていただいて、その際にはユニークで約1,600名のユーザーに使用いただきました。その実証実験の準備にあたり、自治体窓口の対応に知見のある、株式会社エイジェックとさまざまな対話をしながら実現に向けて動いてきました。


―DNPとエイジェックは、「メタバース役所」のサービスの中でどのように業務を連携しているのでしょうか。
<山川>
DNPは、メタバース空間を設計・構築し、安全安心に運用できるようにするのが大きな役割ですね。例えば、「どこからユーザーが入って、どう動いてもらった方がいいのか?その場合、どこに窓口を配置すべきか?」ということなどを検討しながら導線や空間内のレイアウトを決めたり、個別相談の内容が外に漏れないようにするための技術適用などをDNPは主に担当していました。
一方でエイジェックのみなさんには、その空間の中で、実際に住民のみなさんとコミュニケーションを取っていただく部分でご協力をお願いしました。
<小池>
エイジェックは、桑名市で2月に実施した「メタバース役所」の実証実験にて、相談窓口と受付案内の接客業務、交流会のファシリテーションを担当させていただきました。メタバース空間内は、参加者が全員アバターの姿で参加するため、担当スタッフと市民のみなさん、双方がアバターを介してコミュニケーションするという形式でしたね。
―「メタバース役所」を介して、DNPとエイジェックが連携するきっかけとなった最初の出会いとは、どんなカタチだったのでしょうか。
<山川>
まだ「メタバース役所」という名前が付く前の、「メタバースを自治体業務に活用できないか……」というサービス構想・仮説の段階で、エイジェックさんに相談をさせていただきました。もともと、別の部署の自治体業務の関連で、エイジェックさんの強みを生かして連携しているケースがあったんです。その担当から、「延べ150を超える自治体の窓口業務のサポートを行っている企業がある」ということを聞いて、エイジェックさんへ私からお声がけをしました。
―「メタバース役所」がサービス構想だった時期からのお付き合いだったんですね!
「リアルではなく、バーチャル空間に役所をつくる」というコンセプトを初めて聞いたとき、小池さんご自身や、エイジェック社内の反応はいかがでしたか?
<小池>
はじめて「メタバース役所」について伺ったとき、率直に「ついに時代はそこまで進んできたのか!」と思いましたね。正直なところ、「すぐに実現できるのかな?」との思いもあったのですが、それ以上に、さまざまな事情によって行政サービスの利用機会を失ってしまっている方のニーズを拾い上げられるのでは……という期待もすごく感じていました。
エイジェック社内では、新しいことに貪欲に取り組んでいこうとする風土があるので、「『メタバース役所』?なにか面白そうなことやっているね!」と取り組みについていろんな人が声をかけてくれました。弊社の代表からも、「すごくおもしろい取り組みだから、ぜひやってみなさい」と背中を押してもらいましたね。

桑名市・エイジェック・DNP、3者の共創が開発のカギ
―桑名市での「メタバース役所」のプロジェクトが始動したのは、いつ頃からだったのでしょうか。
<山川>
もともと、桑名市には「コラボ・ラボ桑名」という、民間企業からの企画やアイデアを集めるために開かれている対話窓口があります。当時まだ構想段階だった「メタバース役所」というサービスについて、DNPからご連絡したところから、連携をスタートさせていただきました。
―桑名市の方でも「共創」について積極的な姿勢だったからこそ、スタートしたサービス構想だったのですね。その頃から、すでにエイジェック社とDNPで連携を取られていたのでしょうか。
<山川>
そうですね、エイジェックへお声かけをしたのも、桑名市へお問い合わせしたのとほぼ同時期でした。エイジェックのみなさんとキックオフをしたのが、実証のちょうど約1年前の2023年の春ごろでした。以降その年の秋ごろまで、エイジェックの中で、実際に自治体のサポート業務にあたられている約30名のスタッフの方々と、オンライン・対面を組み合わせてサービスの具体化に向けたディスカッションや、メタバースの体験会なども実施しました。だいたい隔週の頻度で、定期的に対話をさせてもらっていましたね。
―隔週というと、かなり高い頻度でコミュニケーションを取られていたんですね。
<小池>
はい、これまでにないバーチャルでの窓口業務だったということもあり、窓口業務でのオペレーション上使いやすい設計か、違和感なく操作できるかどうかなど検証していきました。
特に、リアル対応での経験値の高いベテランスタッフの場合、今回のような新しい技術や空間内での画面の操作を中心とした対応に慣れていないということも事前に懸念として挙がっていたので、フォローアップのための操作研修会も、エイジェック社内で定期的に実施していましたね。
―例のないサービスだったからこそ、共創のための柔軟かつ密度の高い対話を社内外で進められていたんですね。
没入感のあるUIですっかり「自分の分身」に
―メタバースの操作感について、当初エイジェックのスタッフの方の反応はいかがでしたか?
<小池>
最初はみんなアバターの操作に慣れておらず、突然後ろ向きに走り出したり、意図せぬ方向に行ってしまったりと、戸惑いは大きくあったようでした。(笑)
でも、操作に慣れてくると不思議なもので、だんだん「アバターを操作している」というよりも、「アバターとしてバーチャルな空間に存在している、アバターは自分の体の分身だ」という感覚になるほどに空間に没入して、どんどん操作が上達していったんです。
あるスタッフは、「ちょっと疲れたから座ろうかな」と言って自分のアバターを座らせたりして……当然、実際の身体は元から座っているはずなのに。(笑)
でもそれほどバーチャル空間に没入して、すっかりアバターと身体が同期されているという感じでしたね。

<山川>
メタバースの醍醐味ですね!(笑) サービス開発もした提供側として、そういった声はうれしいです!
でもこうしてエイジェックのみなさんが、実際のオペレーションを想定した適切なUIであるかについて検証を重ねて、多くのフィードバックを出していただいたので、実際に修正できたポイントはたくさんありました。
例えば、相談の際のアバターはもともと立ったままで実施する想定でした。ただそうすると、「ユーザーのアバターが立っているだけでは、相談したい人なのか、ただ佇んでいる人なのか、スタッフからは判別しづらい」というお声をいただいて、相談をユーザーが希望する場合には「窓口の椅子へ着席する」というアバターの動作を入れるようにしたんです。こういったフィードバックから、運用面でのコミュニケーションミスをできるだけ減らす工夫を加えることができましたね。
次回、インタビュー記事後半では、2月に実施した実証実験でのユーザーの反応や、
今後の展望についてご紹介していきます!お楽しみに!
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