日豪連携で取り組む、分散型ID管理プラットフォームの構築。その現在地と次の展開とは?
- DNPの分散型IDに関する事業化について興味のある方
- デジタルアイデンティティを活用した事業を検討している事業者・団体
- デジタルアイデンティティに関連する技術を保有し、事業検証したいスタートアップ企業
- グローバルでデジタルアイデンティティを活用したビジネスを検討している事業者・団体
大日本印刷株式会社(以下、DNP)、三菱UFJ銀行とオーストラリアのMeeco社による日豪パートナーシップが取り組む、分散型IDを利用した“信頼できるデジタル空間”の構築。2024年9月、その技術検証の結果と今後の展望に関する発表イベントが在日オーストラリア大使館で開催されました。
分散型IDとは、生活者が個人IDを主体的に管理できるデジタルIDの仕組みです。DNPは今後、日豪両国の人的交流の活性化をめざし、関連企業と連携しながら観光や留学、就労などの様々なシーンで実証実験を進めていきます。
今回の記事では、イベント当日の様子とあわせ、そこで発表された「DNP分散型ID管理プラットフォーム CATRINA(カトリーナ)」の概要と今後の取り組みについてレポートします。
<目次>
- 日本とオーストラリアの協働で分散型IDの未来を拓く
- 分散型IDで訪日観光客の体験価値向上を目指す
- クロスボーダーでパートナーシップを強化し、社会実装を目指す
- [Column]駐日オーストラリア大使 ジャスティン・ヘイハースト氏 コメント
- [Column]Meeco社 カトリーナ・ダウ氏 コメント
日本とオーストラリアの協働で分散型IDの未来を拓く
2024年9月27日、オーストラリア大使館に日本とオーストラリアのさまざまな地域の観光局、メディア関係者などが集まりました。
イベントの冒頭、ジャスティン・ヘイハースト駐日オーストラリア大使が開会の挨拶に立ち、オーストラリアと日本のパートナーシップの重要性を述べました。
「オーストラリアの革新的なスタートアップであるMeeco社と日本の大企業であるDNPとのコラボレーションは、大きな可能性を秘めています。今回の分散型IDプラットフォームの発表に際し、関係者の皆様に心からの祝福を送ります」と大使は語り、今後の両国のパートナーシップ促進に意欲を示しました。
続いて登壇したのは、オーストラリアのMeeco社CEOカトリーナ・ダウ氏です。
Meeco社は2012年にオーストラリアで設立された、分散型ID管理と認証サービスを提供するグローバルプロバイダーです。今回の分散型ID管理プラットフォームでは、分散型IDのベースとなる技術をDNPに提供しました。
カトリーナ・ダウ氏は「10年以上前から思い描いていた、リアルとデジタルが融合した世界がついに実現しました。ただし一方で、個人情報の漏洩や詐欺などデジタルトラストが揺らぐ出来事も起きています。今や私たちのあらゆる行動はデジタルIDと紐付けられており、安全に使えて信頼性の高いIDが欠かせません」と警鐘を鳴らします。
EUでの規制強化の動きにも触れ、「2027年までにEU市民全員が安全なデジタルインフラにアクセスできるようにすることが義務付けられています。その意味でも、今回の発表は世界のモデルになるでしょう」と解説しました。
ダウ氏は、DNPとの協業で開発した分散型ID管理プラットフォームの意義についても「世界の最先端を走る画期的な取り組み」と強調するとともに、「DNPから最初のコンタクトをもらったのは10年も前のことで、当時のMeecoは設立間もない時期でした。この事実は、同社が高い先見性を持ち、革新的で未来志向の企業であることを示しています」と、パートナーとしてのDNPの価値を評価しました。
さらに、「DNPとMeeco社の協業によってデジタル世界にどのような変革を起こせるのか、胸を躍らせています」と語り、分散型ID管理プラットフォームの活用によるオーストラリアと日本のさらなる関係強化の重要性を述べました。
分散型IDで訪日観光客の体験価値向上を目指す
続いて、DNPの岡本凜太郎から、「DNP分散型ID管理プラットフォーム CATRINA」の詳細と今後の実証実験について説明が行われました。
分散型IDとは、VC(Verifiable Credentials)と呼ばれるデジタル証明書技術を通じて、生活者が個人IDを主体的に管理できるデジタルIDの仕組みです。生活者は必要な情報だけを必要な範囲で共有でき、企業は提出された個人情報を検証する負荷の軽減が期待できます。
DNPはMeeco社の技術協力を受け、高度なセキュリティ下で不正アクセスやデータの改ざんを防ぐ独自の分散型ID管理プラットフォーム「CATRINA」を開発。その実証を進めるにあたり、日本とオーストラリアの企業が参加する「日豪クロスボーダー相互運用性ワーキンググループ」を発足させるとともに、まずは観光分野での活用にフォーカスを当てていることが明らかにされました。
その背景について岡本は「近年、増加しているオーストラリアからの訪日観光客を想定し、彼らの旅行体験を向上させるVCの実現を検討しています」と説明。
具体的な活用イメージについては、「分散型ID管理プラットフォームを活用することで旅行者の本人確認が容易になります。たとえば、事前に証明された個人情報を使用することで、ホテルのチェックイン時などに煩雑な手続きを省略することが可能に。まずは宿泊や買い物など観光分野での実証実験を皮切りに、将来的には医療情報、学歴や資格取得データ、金融資産情報などをVCを使って個人が管理・共有できる社会を目指しています」と語りました。
最後に、日豪各地の観光局と実証実験を進め、早期の社会実装に向けて取り組んでいくと述べ、「多くの事業者・団体とパートナーシップと結び、幅広いユースケースをつくっていくつもりです」と締めくくりました。
続いて、日本側でDNPの重要なパートナーとなっている三菱UFJ銀行の佐田貴之氏が登壇。「銀行が持つ信用供与機能を分散型IDの領域で活用することで、信頼性を担保しつつ、より広範囲なサービスを実現できると考えています」と述べ、銀行がこの分野で果たせる役割の大きさを指摘しました。
邦銀としては初の試みとなる今回の取り組みについて佐田氏は、「将来的にはVCと決済等の金融機能を連携させることで、ユーザーの皆様にさらなる価値を提供できる可能性があると考えています」と力強く語りました。
クロスボーダーでパートナーシップを強化し、社会実装を目指す
DNPとMeeco社の協業による分散型ID管理プラットフォームが、デジタル社会における個人情報の保護とデータ利活用の利便性向上に大きく貢献する可能性が示された今回のイベント。
3名の講演終了後には、「DNP分散型ID管理プラットフォーム CATRINA」のデモンストレーションが行われ、多くの来場者がその仕組みやユースケースについて個別に相談するシーンも見られました。
イベントの最後には参加者全員で記念撮影も。その後、軽食が用意され、オーストラリア大使館、Meeco社、三菱UFJ銀行、DNPのメンバー、イベントに参加した各地の観光協会関係者が自由に歓談するなか、日本とオーストラリアのパートナーシップをより強固なものにしました。
予定時間をオーバーするほど盛り上がった交流会。最後に閉会の挨拶をしたのはDNPの専務執行役員・蟇田栄です。
蟇田は、「10年以上前から“未来のあたりまえ”をつくろうと取り組んできたことが今、ようやく実現しようとしています。誰もが安全・快適に国境間を移動できる社会をつくるために、今後もクロスボーダーで取り組んでいく考えです」と語り、パートナーへの感謝と今後の協力を求めてイベントを締めくくりました。
グローバル規模でニーズが高まっている分散型ID。日本においても政府主導で関連するコンソーシアムが発足され、2030年頃までに具体的なフレームワークの構築を目指していることから、今後は分散型IDへの対応を進める企業が増えていくことが予想されます。
こうした動きを加速するには、高度なセキュリティを構築するとともに、利便性の高いユースケースを創出していくことが欠かせません。DNPでは国内外のパートナーとの協業をより強化し、分散型ID管理プラットフォームのさらなる機能拡充、利用シーンの拡大を目指してきます。グローバルシーンにおいても前例の少ない今回の発表は、その大きな一歩となるはずです。
[Column]駐日オーストラリア大使 ジャスティン・ヘイハースト氏 コメント
“分散型IDは世界的にもイノベーティブなテーマであり、その先陣をきる両社に期待しています”
オーストラリアと日本の関係は非常に強固であり、これまでも資源、エネルギー、農業など幅広い分野で信頼関係を築いてきました。デジタル化における課題の解決においても、両国の政府や企業が連携して多様なイノベーションを生み出しています。
Meeco社とDNPの長年の協業から生まれた今回の分散型ID管理プラットフォームは、個人情報を適切に保護し、観光やビジネス目的で相互の国を訪問するオーストラリア人と日本人のセキュリティの安全性を向上するものとなるでしょう。これによって、両国の国際的なつながりはさらに深まると考えています。両社のパートナーシップは日豪のイノベーションにおける協業の素晴らしい例です。今回、大使館で祝福できたことを大変嬉しく思います。
在日オーストラリア大使館では、両国の企業がより深い関係性を築いていけるよう力を尽くし、今後も幅広い支援をおこなっていく予定です。
[Column]Meeco社 カトリーナ・ダウ氏 コメント
“長年にわたり金融、ヘルスケア、サプライチェーンなど幅広い市場を開拓してきたDNPとの協業は、とても刺激にあふれた経験でした”
分散型IDはデジタル経済への信頼を加速させ、詐欺の削減に役立ちます。市民が信頼できるエコシステム内で自らのIDを管理し、透明性のある方法で共有することができるだけでなく、ビジネス面においても新しい価値を迅速かつ低コストに創出することが可能です。ただし、こうしたシームレスにつながる世界を実現するためには、グローバルな協業ネットワークが必須です。
分散型ID管理プラットフォームの構築にあたり、150年近くの歴史を持つDNPとの協業はとても刺激にあふれています。金融、ヘルスケア、サプライチェーンなど幅広い市場を開拓してきた技術と経験は、私たちの取り組みを強力に後押ししてくれます。DNPが築いてきた信頼とネットワークをデジタルの世界に拡張していくことは非常に意義深いことであり、そのパートナーであることを誇りに思います。
今後はまず、日本における分散型ID管理プラットフォーム導入を成功させ、その後はオーストラリアやヨーロッパなどでも相互に運用していくことを目指しています。DNPの次の150年を支える一助となる、デジタル基盤の構築を実現することが私の目標です。
*DNP 分散型ID管理プラットフォーム CATRINA
https://www.dnp.co.jp/biz/products/detail/20175481_4986.html
今回の記事はいかがだったでしょうか。
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※2024年11月20日時点の情報です
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