(特別企画)対談:キーパーソンが語る“DXB”の現在地とこれから【後編】 ―DNPとBIPROGYが共に描く未来社会の姿―
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大日本印刷(以下、DNP)とBIPROGYの業務資本提携から12年以上が経過し、2024年で13年目となる。その協力関係は現在も厚みを増し続けている。
今、両社のコラボレーションは、XRやメタバース、AI・量子コンピューティングなどの先端領域でも取り組まれている。DNPの宮川尚氏とBIPROGYの大嶽秀人という2人のキーパーソンが語る「これからのDXBの地平」とはどのようなものなのだろうか――。
DNPでは、XR/メタバースの技術革新によって新たな領域での可能性を模索する挑戦も続いている。BIPROGYとの協業においても、AIやアバターといったさまざまな先端技術が取り込まれ、進化を続けている。“DXB”の現在地と未来像を語り合う本企画。その後編では、XR領域でのコラボレーションを中心に紹介していきたい。
XR/メタバースの「使いどころ」と最新事例
――後編では、XR/メタバース領域での取り組みを中心に伺っていきます。まず、DNPはなぜこの領域に注力しているのでしょうか。
宮川 確かに「印刷会社がなぜ?」とよく聞かれます。DNPは、印刷会社として長い間、「情報を預かり、加工して届ける」、あるいは「保存する」仕事を手掛けてきました。これまでその媒体は、主に紙やフィルムなどのモノづくり分野でしたが、インターネットの社会浸透後はデジタル媒体が増えています。現時点でこれらはその多くが基本的に2次元ですが、XR/メタバースの社会実装が進展すれば、3次元領域へと業務領域は広がると見ています。こうした変化の中で、コミュニケーションの質や用いられる技術も進化を続け、いわば、「体験の印刷」が実現していくと考えています。
例えば、ある会議をカメラやレコーダーで記録し、3次元の空間データ+音声データとして加工すれば、長期保存もできますし、遠方のメンバーとリアルタイムでメタバース空間を共有することもできる。つまり、「体験そのものを印刷、再現すること」が可能です。技術的には、やろうと思えばできる時代になりました。そして、その進化は今も続いています。
――そうした技術をいかに事業につなげるか。具体的な取り組みについて教えてください。
宮川 XR/メタバース市場は、現在「黎明期」にあると感じています。しかし、2025年の大阪・関西万博を機に「普及期」に入ると見ています。その機会にいかに事業を創出するか――。私たちは「フォアキャスト」と「バックキャスト」という2つのアプローチで取り組んでいます。
まず、フォアキャストです。XR技術においては、これまで地域文化財・美術品のデジタルアーカイブなどで実績を重ね、またマーケティング分野においては多種多様な業務のDX化に携わってきました。それらの経験とノウハウを融合し、XR/メタバースの事業化を推進しています。基本的な考えは、リアルの価値を拡張する手段としての「デジタルツインのメタバースを構築」すること。そして、特殊なアプリやデバイスを使わずに誰もが簡単にこの世界に入ることができるようにするための「Webブラウザによる接続」を提供することで、両世界をシームレスにつなぐ“新たな経済圏”の創出を目指しています。
その事例をいくつか紹介しましょう。まず、東京都・渋谷区の宮下公園や、千代田区の神田明神、秋葉原、そして佐賀県・嬉野市などです。地元自治体や地域団体と連携して特定エリアのメタバースを作成しました。現実との連動をいかに実装するかがポイントでした。活動から見えたのは、リアル連動のメタバースで価値創出をしやすい「場」があるということ。例えば、東京都が実施する「バーチャル・ラーニング・プラットフォーム」には、DNPのメタバースが採用されました。主なユーザーは不登校や日本語指導が必要な児童・生徒です。
コロナ禍の前、取り組みの目標は「登校に導くこと」でした。しかし、コロナ禍を経て、必ずしも“登校はゴールではない”との認識が高まってきたようです。バーチャル環境を通じて彼ら彼女らに寄り添い、学びに役立つのであれば、それも重要な成果です。東京都はその考えに基づき、メタバース空間を児童・生徒の居場所、学びの場として充実させています。今、私たちは、社会課題解決の1つの方法として、同じ悩みを持つ自治体への横展開を視野に入れています。
この他、自治体など行政機関の業務をメタバースで再現する取り組みもあります。役所に行きたくても行けない事情を抱えた住民も、メタバースにアクセスして申請などの手続きができるといった使い方です。また、職員の働き方改革という文脈で、テレワークをサポートするメタバースに注目する自治体もあります。
さらに付加価値の高いXR/メタバース体験の創出に向けて
――次に、バックキャストのXR/メタバースですが、そのアプローチはどのようなものでしょうか。具体例も併せてお聞きできれば幸いです
宮川 潜在的なニーズや環境変化に伴い、「このようなペイン(コストをかけても解決したい業務課題の意)が増大するのではないか」といった議論を重ねながら技術開発やビジネスモデルの検討を進めています。例えば、別々の場所にいる複数メンバーが同じメタバース空間を共有し、スムーズな共同作業を進められる技術を開発中です。技術はすでに存在しますが、スムーズなコラボレーションが可能な空間をつくるには多種多様な工夫が必要です。また、少し先の時代を見据えた研究開発としては、「デジタルヒューマン」があります。今後、自分をコピーしたAIが生まれ、バーチャル空間でAさん、Bさん、CさんのAIが協業するかもしれません。ほとんどSFの世界ですが、そんな時代に必要な仕組みやテクノロジーなども研究しています。
大嶽 非常に興味深い事例や取り組み、そしてその思いをお聞きしました。事業化の段階に入っているものも多く、とても刺激を受けています。社会課題の解決に向け、BIPROGYとしてもDNPの取り組みがより大きな価値につながるようさらにサポートしたいと思っています。
実は、DXBでシナジーを実現できる分野や効果的なコラボレーション方法について2年ほど前から両社で話し合ってきました。例えば、金融機関店舗での受付にアバターを活用するといったサービスは、BIPROGYでもすでにトライアルが進んでいます。
今後はさらに付加価値の高いXR/メタバースのサービスを開発し、法人向けに提供したいと考えています。そのためには、カスタマイズされたサービスを簡単に開発するためのオーサリングツールなどを充実させる必要があるでしょう。その他、必要な要素技術を含めて、準備すべきことは多いと感じています。
DNPの技術は、BIPROGYの取り組みにおいても大きな意味を持っています。その代表例は、DNPがいち早く事業化に取り組んでいる分散型IDシステムです。メタバース空間で“対面”した相手がフェイクでなく、本当にその人なのかどうか。DNPの分散型認証技術を活用することで、アバターの真正性を担保できるでしょう。メタバース空間でのコラボレーションなどには欠かせない技術だと思います。
“DXB”による創発で新たな事業やサービスを生み出す
――BIPROGYの経営方針にXRやメタバースはどう位置付けられているのでしょうか。
大嶽 先ごろBIPROGYは経営方針(2024~2026)を発表しました。その中で、いくつかの要素技術を挙げています。生成AIやセキュリティ、クラウドと共に、メタバース・デジタルツインも含まれます。先端分野では、量子コンピューティングも注力テーマの1つ。こうした分野に積極的にリソースを投入し、新たな価値創出にチャレンジします。XRとメタバースに限らず、DXBには多くの舞台があります。
例えば、量子コンピューティングです。DNPとBIPROGYは、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)の公募に対して、「量子+古典AIによる物流業務効率化のアプリケーション開発」を共同提案し、採択されました。研究開発の対象は、配送計画や倉庫内ピッキング計画の最適化です。
これらの中で、トラックなどの経路を最適化して効率的な配送を実現するアプリケーション開発、人とロボットが共存する倉庫でロボットを安全かつ効率的に動かすアプリケーション開発などを進めています。
――DXBの価値をさらに高める上で、今後、お二人はどのような取り組みを考えているのでしょうか。
宮川 企業環境の先読みがますます難しくなる中で、オープンイノベーションの重要性は増しています。しかし、「初めまして」の相手と深い話ができるようになるまでには、やはり時間がかかります。その点、緊密な提携関係を長期にわたって続ける中で培った信頼関係には大きな意味があります。お互いを理解した上で、スピードを持って共創に邁進することができる――。そのスピードをさらにアップしながら、手を携えて新たな価値づくりにチャレンジしていきたいですね。
大嶽 先ほど触れたように、DXBはXRとメタバースだけでなく、幅広い分野で進行中です。これまでは、どちらかというと個別案件で連携するケースが多かったのですが、今後は多くの部門を巻き込んで新事業や新サービスの開発につなげたいと思っています。BIPROGYでは各部門がパーパスを定めています。DXBインキュベーション部のパーパスは「創発を誘発する」です。前編で新人研修の話もしましたが、今、次代を担う力も着実に育ちつつあります。この確かな歩みを一つずつ力に変え、DNPとの創発がより豊かな実を結ぶよう、これからも両社で議論と工夫を重ねていきたいと思っています。
■関連リンク
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