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2024.3.06
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子どもたちがフォントを選べる未来へ。小学校での出張授業を通して見えた「じぶんフォント」の可能性

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DNPは発達性ディスレクシアを含む文字の読み書きに困難がある人にとって見やすく読みやすい「じぶんフォント」の開発プロジェクトを統轄しています。

2023年9月に東京都板橋区・板橋第十小学校の4年生を対象に文字の読みやすさを伝える出張授業を行いました。今回はDNPの「じぶんフォント」プロジェクトマネージャー 金子真由美氏、共創パートナー・渋谷ブレンド代表取締役社長 細目圭佑氏とプロデューサー 碓井隆太氏、板橋区立板橋第十小学校教諭であり一般社団法人まなびぱれっと代表理事の小泉志信氏に出張授業を振り返っていただき、「じぶんフォント」の教育現場導入の可能性についてお話をお伺いしました。

左から:渋谷ブレンド 代表取締役社長 細目圭佑氏、板橋区立板橋第十小学校教諭・一般社団法人まなびぱれっと代表理事 小泉志信氏、
DNP ABセンターICT開発ユニットコミュニケーション基盤開発部 金子真由美氏、渋谷ブレンド プロデューサー 碓井隆太氏

 


【この記事はこんな人におすすめ】

  •  教育現場でのユニバーサルコミュニケーションに関心のある自治体・企業
  •  平等な教育機会の提供を実現したい自治体・企業
  • 「じぶんフォント」の事業に関心がある自治体・企業

子どもたちにフォントの役割を知ってもらうための出張授業を開催

-フォントの役割を伝える出張授業を開催した経緯を教えてください。

金子:これまで「じぶんフォント」を教育現場に普及するための施策を渋谷ブレンドと共に考えていました。しかし、まずは子どもたちにフォントの役割を伝え、文字の読みやすさについて考えてもらう機会を作りたいと思いました。今回、まなびぱれっとの小泉さんとのご縁があり板橋第十小学校にご協力をいただき、出張授業をさせていただく機会をいただきました。

小泉:私は小学校の教員とは別にまなびぱれっとの代表理事として活動しています。教師と子どもたちが安心して社会に混ざり合う未来を目指して活動しています。これまでも民間企業と学校の橋渡しの役割を担い、わくわくするようなシナジーを生み出してきました。

 

以前、まなびぱれっと主催で教員と一般の方が一緒に参加し、「未来の授業を作る職員会議」というワークショップを開催しました。その際に碓井さんから「じぶんフォント」を紹介していただいたのが出張授業開催のきっかけです。私以外の教員も「じぶんフォント」の取り組みに共感し、授業でフォントの役割を伝えたいとおっしゃってくださいました。

-出張授業の具体的な内容を教えてください。

 

碓井:まずは金子さんがフォントの役割について説明し、文字で物の特徴や人の感情を表現する時に、同じ言葉でもフォントが変わると伝わり方が変わるということを伝えました。

次に、ワークショップとして、生徒たちにオリジナルのフォントを作ってもらいました。飲み物を題材にして、ラベルを作成するのですが、何の飲み物なのか手に取った人に伝わるようにフォントをデザインします。あえて色は使わず鉛筆のみを使って、文字の形で伝えることに挑戦してもらいました。

-出張授業を受けた生徒の様子はどうでしたか?

小泉:授業が終わった後も作業を続けている生徒がたくさんいましたね。文字の面白さを感じた1時間でした。

金子:子どもたちのこだわりには驚きましたね。自分が思い描くかっこよさを表現したり、飲み物の特徴を活かした表現を模索したり、みなさん自由に書いてくれました。

碓井:既存の飲み物のラベルをインターネットで調べずに書き始めた生徒の方が、調べた生徒よりも作業の進みが早かったことが興味深かったです。書き始める前に画像を調べてしまうと、既存のイメージに引っ張られて新たなフォントを想起しづらくなるようでした。

細目:絵を描くことにも選択肢があるということですよね。デジタル機器を活用した方が作業効率の良い子もいれば、使わない方が独創的なものを生み出せる子もいる。学校では一人一台タブレットが支給されているので、創作の過程にも多様性があることが現在の教育環境であり、子どもの個性を発揮するポテンシャルを引き上げていると感じます。

 

出張授業を通じて得られた「じぶんフォント」の教育現場への導入の可能性

-出張授業を通じて得られた気づきはありますか。

小泉:大人が社会課題にチャレンジして世の中にない価値を生み出そうとしている姿に、子どもたちが好奇心を持ってくれたことが印象的でした。出張授業としても良いロールモデルになったと思います。

今回の出張授業を通して、民間企業が持つ社会課題解決への熱量や行動力を実感しました。大人たちが真剣に物事に向き合う姿を通して、挑戦する価値や最新の技術を知り、子どもたちが未来を考えるきっかけになればと思います。

細目:サービスを生み出す側からすると、作ったものが良いか悪いかを判断しがちですが、子どもたちが何かを作り出すこと自体に目を向けてくれているとしたら、とても嬉しいです。

 

碓井:事業視点で話をすると、現場へのアプローチについて学びがありましたね。出張授業の実現に向けて、まずは区議会議員やPTAへアプローチをしました。ただ、なかなか実証実験に進むことができなかった。そこで、教育現場に直接アプローチしてみようと、民間のイベントスペースでフォントの授業を提案しました。すぐに開催をすることができて、参加者の募集もあっという間に定員である30名の枠が埋まりました。

また、まなびぱれっとが主催した教員向けのワークショップに参加した際にも、教員の方たちが興味を示してくれて、「学芸会の台本でフォントを変えてみると面白いかも」「国語の授業で導入すれば音読のしやすさが変わるかもしれない」と盛り上がり、今回の出張授業に繋がりました。子どもたちと直接触れ合う教育現場の方たちにフォントの持つ可能性を伝えることで、実証実験へのステップに進みました。サービスを開発する際には利用してくださる方への地道なアプローチがとても重要だと気づきましたね。

-出張授業を通して「じぶんフォント」の教育現場への導入の可能性は感じましたか。

金子:授業の最後に生徒に「じぶんフォント」や教科書で使われる教科書体などの8つのフォントを比較して、どのフォントが読みやすいか選択してもらいました。(8つのフォント:「じぶんフォントKDまるご」「じぶんフォントKDはっきりまるご」「じぶんフォントKDどっしりまるご」「じぶんフォントKDすっきりまるご」「E教科書体」「F角ゴシック体」「G丸ゴシック体」「H角ゴシック体」)文字の読みやすさは人それぞれで、それが個性であることを伝えました。また、読み書きが苦手な生徒が「じぶんフォント」を選ぶケースが多いというデータも得られ、「じぶんフォント」の可能性を感じましたね。

図1.調査に用いた8フォント

図2.クラスターごとの読みやすいフォント(書体)

図1 図2引用:朱心茹・金子真由美「個別最適な読字体験を目指す『じぶんフォント』プロジェクト:社会基盤としての書体の実践と研究の中で」『日本印刷学会誌』vol. 60, no. 6, 2023, p. 337–344.

碓井:今回、一学年全体でアンケートを実施できたことで、評価できるエビデンスを得ることができました。

小泉:「じぶんフォント」が教育現場で導入されることで、子どもたちの「読むこと」がアップデートされるのではないでしょうか。フォントを選べるということ自体が、社会の普通であり学校の普通にシフトしていきたいですよね。

「じぶんフォント」の今後の展望について

-今回の出張授業を振り返り、今後の展望をお聞かせください。

金子:最終目標は「子どもたちが学校のタブレットでフォントを選び、誰もが等しく教育を受けることができる未来」。ここで満足せずに次のステップに進みたいですね。現在の目標は「じぶんフォント」をデバイスに導入していただくことなので、メーカーへの認知を広げていきたいです。また、東京以外の地方の学校や自治体に向けても「じぶんフォント」が教育現場で教員や生徒たちから求められていることを伝えていきたいですね。今後も出張授業や教員向けのセミナーを開催していきたいです。

小泉:教員の私たちだからこそ民間企業に届けられる言葉があると思います。「じぶんフォント」は社会的意義が高い事業だと出張授業を通して感じました。子どもたちに利用してもらう価値を教育関係者に理解いただけるようにアプローチするお手伝いをしていきたいですね。色鉛筆の色を選ぶように、多様なフォントから自分が読みやすいフォントを選べるようになればいいなと思います。

細目:DNPとの共創をきっかけに、小泉さんやPTA、民間企業など、教育業界への課題解決に取り組みたい方たちにたくさん出会うことができました。「じぶんフォント」以外でもそういった人たちを巻き込みながら教育業界に向けて新たな事業を生み出したいです。さきほど小泉さんがおっしゃっていたように、大人たちが社会のために活動している姿を子どもたちに見せていきたいですね。

 

 


今回の出張授業で子どもたちのリアルな声や反応を得ることができ、「じぶんフォント」の教育現場への導入の必要性と未来の可能性をさらに感じることができました。DNP INNOVATON PORTでは「じぶんフォント」の活動を通して、子どもたちにとって平等な教育機会の提供ができる未来を作る過程を今後も発信してまいります。「じぶんフォント」の事業における共創の可能性がございましたら、お気軽にお問い合わせください。

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