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2023.9.13
  • CO-CREATION

教育現場への導入を目指して。読み書きが困難な子どもへ「じぶんフォント」を届ける共創プロジェクト

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DNPは発達性ディスレクシアを含む文字の読み書きに困難がある人が見やすく読みやすい「じぶんフォント」の開発プロジェクトを統轄しており、現在は教育領域への導入に向けて子どもの読み書きに関する実証実験の準備をしています。

今回はDNPの「じぶんフォント」プロジェクトマネージャー 金子真由美氏と、実証実験の共創パートナー・渋谷ブレンド代表取締役社長の細目圭佑氏に共創についてお話をお伺いしました。


【この記事はこんな方におすすめ】
①平等な教育機会の提供を実現したい自治体・企業
②読み書きに関わるコミュニケーションに関心のある自治体・企業
③大企業とスタートアップ企業の共創事例に興味がある方


 

教育現場への「じぶんフォント」導入に向けたDNPの思い

-「じぶんフォント」開発の背景と、DNPの役割を教えてください。

金子:プロジェクトの始まりは、発達性ディスレクシア※を持つ読者にとって読みやすい書体に関する研究に取り組んでいる東京工業大学の朱心茹(しゅしんじょ)助教との出会いです。個々人の読み書き特性に対応できる日本語フォントが、まだないことに課題を感じ、DNPのオリジナル書体「秀英体」をベースに、読みにくさを感じているすべての方に向けた「じぶんフォント」を開発することを決めました。DNPはプロジェクトの統括として、開発と実用化の役割を担っています。

※発達性ディスレクシアは、知的能力や教育環境に問題がないにも関わらず文字を読むことが困難(文字を読むのが遅い、読み間違いが多いなど)な学習障がいです。二次的に、学業不振や学校不適応等が生じる可能性があると知られています。

-DNPのオリジナル書体「秀英体」は100年以上の歴史があります。現在もフォントを開発している理由を教えてください。

金子:DNPは印刷事業から始まった会社で、創業当時にオリジナル書体として「秀英体」が誕生しました。実は「秀英体」は誕生してからずっとアップデートし続けており、「人に思いを伝えるツール」として、美しく読みやすい文字を追求しています。フォントは、世代や国籍、障がいを超えたコミュニケーションツールになりうるのではと考え、ユニバーサルコミュニケーション(UC)に力を入れています。

-金子さんご自身は「じぶんフォント」に対してどのような思いを抱いていますか。

金子:実は東京パラリンピックのボランティアの経験で、障がいを持つ選手たちとの触れ合いを通して、自分も何か役に立ちたいという思いが強くなりました。また、身近におそらくディスレクシアが原因で不登校になってしまったお子さんがいて、私になにかできることはないかと考えるようになりました。読むことに苦しんでいた方たちが、少しでも明るく人生を過ごせるようにと思いながらプロジェクトに取り組んでいます。

-教育現場への導入を目指す理由を教えてください。

金子:読み書き困難が理由で授業についていけず、学校という場所を嫌いになるとか、学習意欲がそがれてしまう、など勉強から離れていってしまう可能性があります。
現在、普及が始まっているデジタル教材であれば、「音声読み上げ」という選択肢もありますが、自分に合ったフォントに切り替えることが出来れば、「じぶんフォント」が多様な学びに対応する学習環境整備を考えるきっかけになるのではないかと考えました。

思いを受け取り、実行するCOO的存在「渋谷ブレンド」との共創

【渋谷ブレンド株式会社】

大手企業様のアイデアや構想に対して事業化推進をするために、渋谷区との官民連携プロジェクトから法人化。カーボンニュートラルやWEB3.0領域を得意とする。事業開発の受託のみならず、日本カーボンクレジット取引所をローンチするなど自社スタートアップにも取り組む。

-大手企業や行政と共創事業に取り組む渋谷ブレンドの具体的な事業内容を教えてください。

細目:渋谷ブレンドは大手企業や自治体との事業開発を専門とする組織です。オープンイノベーションの必要性が日本中で叫ばれて久しいですが、新しい価値を生み出していくことは容易ではありません

渋谷ブレンドは、行政だけでは解決できないような課題に対して民間主体での戦略的エリアマネジメントを仕掛けさせていただき、行政と企業間でスムーズに事業が進むようにサポートしています。これにより、社会課題の解決のみならず大手企業の新規事業として発展させていくことを目指しています。

-渋谷ブレンドは事業を通してどのようなことを目指していますか。

細目:大手企業のビジョンや戦略を絵に描いた餅にせず、本質的に社会実装していく状態をつくりたいです。ビジョンはとても素晴らしい大手企業でも様々な制約で新規事業に対するリスクが取れず、スムーズに動かない場面を多く見てきました。我々はそういった大手企業の事業開発を外部COO組織として支援させていただいております。DNPのような日本の社会に対するインパクトがある企業との共創により、一緒に未来を作っていくことができると信じています。

-DNPと渋谷ブレンドの共創のきっかけを教えてください。

金子:「じぶんフォント」の公式サイトで、それぞれの人に合ったフォントを見つけるアンケートを実施しました。文字の読み書きに困っているであろう子どもの声を拾いたいと考えていましたが、回答者5,000人のうち子どもは20人ほど。民間企業が小学校へ直接アンケートをお願いすることも難しく、悩んでいた際に官民連携や大手企業のプロジェクト推進をしている渋谷ブレンドのお力をお借りすることにしました。

細目:そのようなご相談を受け、渋谷ブレンドでは「じぶんフォント」を教育現場で導入していただくために、教育ステークホルダーにお声がけさせていただきながら執行チームを組成いたしました。

一般的に民間がすぐに教育現場へ直接入ることは難しいですが、今回のような教育現場目線のプロジェクトが、新規事業の実証実験にもなり、教育課題も解決していく兆しとなることは大変興味深いです。

金子:渋谷ブレンドとの共創によって、自分たちでは思い至らなかった方法で教育現場にアプローチすることができて良かったです。

細目:今回の共創はDNPをCEOとしたら、渋谷ブレンドはCOOです。「じぶんフォント」プロジェクトのビジョンと戦略をDNPが考え、渋谷ブレンドがDNPの思いを受け取り執行部隊として動いています。それぞれの役割が明確なので、とても良い関係性でプロジェクトを進めることができています。

子どもたちのリアルな声を集めて実証実験の信頼性を上げ、教育機関やデバイスメーカー企業に提案していきたい

-子どもたちに向けた実証実験の目的と期待する成果を教えてください。

金子:読み書き困難が原因で授業についていくことができない子どもに対して、教育現場が読み書き困難であると判断できない、もしくは対応策を持ち合わせていないために対応が難しいのではないか?という仮説を持っています。

読み書きに困難を抱えていることに教師や親御さんが気付いた際には、「じぶんフォント」を利用し、読み書き困難を少しでも軽減・解消することで、授業に改めて前向きに取り組める環境づくりにお役立ていただきたいです。もし、「じぶんフォント」によってディスレクシアの子どもが本を読めるようになり、自己肯定感を上げることができたら、その体験を分析して、国や教育機関に“誰一人取り残さない教育の実現に向けた施策”として提案していきたいと思っています。

金子:同時に、デバイスメーカー企業に向けてもアプローチをしたいですね。実証実験を通して「じぶんフォント」の必要性を感じていただき、教育現場で子どもが使うタブレットへの導入を進めたいです。

-実証実験はどのように進んでいますか?

細目:現在は子どもたちに向けた実証実験の開催ができる道筋が見えた段階です。我々の本当の目的はディスレクシアの子どもたちの学習促進ですが、学校側からすると「営利目的なのでは」と誤解されてしまう可能性もあります。教育現場のステークホルダーの皆様と子どもたちのためになるように協議を重ねながら、学校側にも納得いただける意味のある施策を実施できるよう準備を進めています。まずは、従来の授業の形式にとらわれず文字に触れる機会を作り、子どもたちの声を拾っていくことを目指しています。

金子:現在想定している施策の内容としては、フォントの役割について理解を深めてもらい、興味を持ってもらえるよう授業を行い、子どもたちがそれぞれの読みやすいフォントを探すというイベントにしようと考えています。

細目:フォントには、「おいしそう」「暑そう」などの感情を伝えることができたり、的確な情報を伝える、文字や文章の読みやすさを変えることなど、さまざまな機能があります。たくさんあるフォントを比べることで、「読みやすさとはなんだろう」と子どもたちが考える機会になればと思っています。

我々が大切にしているのは、勉強が苦手になってしまう「きっかけ」を逃さないようにすること。その原因が読み書き困難の場合には、フォントを一つの解決策としてご提案したいですね。

-実証実験ではどのような目標を持っていますか。

細目:実証実験では、子どもたちに文字の読みやすさを考えるきっかけを提供するところから始めます。その中で、子どもたちのより多くのリアルな声を集め、タブレットメーカーの共感を得て「じぶんフォント」導入を促していければいいなと思っています。

金子:今回の実証実験は渋谷など、東京の近いエリアの小学生に向けての取り組みですが、全国の地域に展開していきたいと思っています。

今後の実証実験に向けて求めるパートナー像とは

金子:学習障がいの課題を全国で解決していくために、地方の教育現場と繋げていただける企業を求めています。また、教育用デバイスや教育サービスを提供している企業、を提供している企業とも連携していきたいです。

渋谷ブレンドと共創して、お互いに深くコミュニケーションを取り、自分たちに不足していたノウハウを補完いただくことで、事業の展開が深く広くなっていくことを実感しました。「じぶんフォント」への思いを共有して、一緒に取り組むことができる企業とさらに繋がることができたら嬉しいです。

平等な教育機会の提供の実現を目指す、自治体・企業の方はぜひお問い合わせください。


GIGAスクール構想が進むことで、1人1台の端末による学習があたりまえになることで、じぶんが一番効果的に学習に取り組めるフォントに調整することもあたりまえになるかもしれません。

本記事をお読みいただき、じぶんフォントについて興味をお持ちいただいた方、活用を検討してみたいので情報が欲しいという方はコチラからお問合せください。


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