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2023.9.29
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「ICTでDNPの新規事業創出を牽引していく」 パートナーとのアライアンス等で新しい価値の創出を加速

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大日本印刷株式会社(DNP)は今、2023年度から3か年の中期経営計画を実行しています。「未来のあたりまえをつくる。」というブランドステートメントのもと、持続可能なより良い社会、より心豊かな社会の実現に向けて、新しい価値の創出に注力しています。その中で特に、新規事業の開発をミッションとするABセンターを率いる金沢貴人(常務執行役員/ABセンター長)が、中期経営計画で果たしていく役割と今後の構想を紹介します。

ICTの独自の強みを活かしてDNPの新規事業を牽引

―金沢センター長の経歴は?

金沢:私は1984年にDNPに入社し、現在の情報イノベーション事業部の研究所に配属されました。主にコンピューターを使った新しいサービスやシステムの研究開発に16年ほど携わっていました。その後、事業部の企画や製造、技術部門などを経て、現在はAB(Advanced Business)センターで新規事業の開発等を推進しています。

―DNPグループにおけるABセンターの役割は?

金沢:中長期の視点で新規事業の創出を推進する部署です。現在推進中の2023~2025年度の「中期経営計画」では、強靭な事業ポートフォリオの構築に向けて、DNPグループの事業を成長牽引事業・新規事業・基盤事業・再構築事業の四つに分類しています。それに対して私たちABセンターは、DNPの新規事業を牽引する役割を担います。特にスマートコミュニケーション部門で、ICTを活用した新規事業を創出することがミッションです。

ABセンターは、大きく事業創出と事業育成の二つの組織で構成されています。事業創出の担当が開発した技術や発見した社会課題・顧客ニーズを、事業育成の担当がビジネスモデルに落とし込み、さまざまな企業と協業しながら、新しい事業として育てていきます。事業育成には、各事業部門のさまざまな分野で営業・企画などを担当していた社員が集結しており、多様性に富んだチームとなっています。

中期経営計画の目標達成に向けた新規事業創出の戦略

―どのような新規事業をどのように創出していく戦略ですか?

金沢:中期経営計画では、DNPグループ全体で、2025年度に850億円の営業利益の達成を目指しています。2022年度の実績と比べて約240億円の差があります。私たちの部署が新規事業をあらゆる分野で創出することで、この目標達成の一翼を担っていきます。

具体的には、最新のICT(情報通信技術)を世の中の社会課題に役立てるような新しいビジネスを創出していきます。エンジニアが開発する最新のICTと、画像処理や自然言語処理など、DNPが長年培ってきた「印刷と情報=P&I」の強みを掛け合わせることで、社会にアプローチしていきます。そして、3年間で240億円という新たな利益を獲得していくには、一つの選択肢として外部のパートナーの力が必要だと考えています。事業開発を加速させるため、必要なアライアンス(連携)を組み、目標を達成したいですね。

―アライアンスによるメリットや今後の意向は?

金沢:ABセンターには、新卒で入社して以来さまざまな分野で活躍してきた社員や、専門の強みを持った不定期採用者が在籍するなど、多様性に富んでいます。とは言え、「DNP」という組織の中で閉じるのではなく、社外のパートナーを交えて事業開発に取り組むことで、さらに多くの視点や気づきを得ることができると考えています。また、DNPが保有していない技術や事業については、それらを一から築き上げるよりも、他社の持つ強みと掛け合わせて一緒につくり上げるほうが、実現性と成熟度が高まります。

私たちの部署では、中期経営計画を受けて、アライアンスに対してさらに積極的に動いていきます。

―新規事業開発のための投資戦略は?

金沢:中期経営計画では、2025年度までの3か年の先も長期的に見据えて、過去最高を上回る1,300億円以上の営業利益を早期に達成することを目指しています。ここまでの目標を達成するためには、一つの手段として、M&Aなどの積極投資が必要になってきます。DNPグループ全体では、2023~2027年度の5年間で3,900億円以上という事業投資を見込んでおり、その中で、成長牽引事業と新規事業から成る注力事業領域へ2,600億円以上の投資を行う予定です。ABセンターとしては、スマートコミュニケーション部門の新規事業である「コンテンツ・XRコミュニケーション関連」に注力していきます。

より良い未来を切り拓くDNPの注力事業領域について

―DNPの注力事業領域である「コンテンツ・XRコミュニケーション関連」の取り組みは?

金沢:DNPは2021年から、リアルとバーチャルの空間を融合する「XR(Extended Reality)」の技術を活かし、新しい体験と経済圏を創出する「XRコミュニケーション®事業」を展開しています。この事業は、DNPが築いてきた多彩な表現技術や、高度なセキュリティ環境で膨大な情報を安全・安心に処理する技術と非常に親和性があります。

近年は、XR技術やインターネット上の仮想空間・メタバースを活用したサービスに、明確なメリットや可能性を実感されている企業や団体、生活者が増えており、具体的な共創の事例も生まれています。メタバースの最大の特長は「コミュニケーション」だと考えています。教育やEC、不動産などのさまざまな分野で、仮想空間も高まっており、複数のプロジェクトが動き出しています。

―金沢さんの視点から見た、魅力的なメタバース分野での展開は?

金沢:教育分野は、とても興味深いと感じています。例えば、ケガなどで物理的に学校に行けなくなった場合でも、メタバース空間では自分のアバターで授業を受けることができます。また、親の転勤などで国内や海外に引っ越すことになっても、仮想空間では以前の友だちと交流を続けることができます。子どもたちの新しいコミュニケーションツールとしてメタバースに注目し、力を入れています。(※1)

またDNPは、サイバー攻撃への対策要員を養成する人材育成サービス「サイバーナレッジアカデミー」を提供しています。2023年9月には、企業の経営・マネジメント層を対象に、メタバースで複数の部門が連携し、サイバーセキュリティ上の不測の事態(インシデント)発生時の緊急対応と組織間連携を学べる「サイバーナレッジアカデミー 演習メタバース版」の提供を開始しました。インシデント発生の際に、対応指示等の責任を持つ経営層の4人がチームを組み、それぞれの役割(ロール)に分かれてメタバースで演習を実施します。自分たちが取るべき行動や組織連携のあり方について、場所の制約なく学ぶことができます。(※2)

―量子コンピューターの領域に関しての事業化計画は?

金沢:DNPは2021年に、GPU(Graphics Processing Unit)搭載の従来のパソコンを使用し、個々の課題に合わせて膨大な選択肢から最適な解を抽出する「組合せ最適化問題」を高速で処理する「DNPアニーリング・ソフトウェア(以下DAS)」を開発しています。これは、量子コンピューターで用いるアニーリング手法を活用したソフトウェアです。すでにDNPの印刷工程の予定の自動作成に使用しており、予定表作成時間を従来の約10分の1に短縮するなど、実績をあげています。

DNPアニーリング・ソフトウェア 研究開発チーム ※関連記事はコチラ

私たちが開発したDASが非常に効果的であることが確認できたため、その強みを活かして、さらなる取り組みの拡大を推進しています。その一例として資本業務提携先であるUltimatrust株式会社のデジタルツインプラットフォーム「Wisbrain」や監視カメラの技術とDASを掛け合わせて、物流倉庫や飲食店等で稼働する自律走行搬送ロボット(Autonomous Mobile Robot:AMR)の経路を最適化するアルゴリズムと、その導入効果を検証できるシミュレーターを開発しました。DNPが持つ技術や製品・サービスと、提携先企業とのシナジーを高めて、さらに新しい技術やサービスを世の中に提供していきたいですね。(※3)

DNP独自の強みを活かしたアライアンス事例について

―すでに生まれている具体的なアライアンス事例は?

金沢:例えば、累計1,100万ダウンロードのヘルスケア/フィットネスアプリ「FiNC」を開発した株式会社FiNC Technologiesと協業して、情報銀行事業を立ち上げました。「FiNC」内で利用できる「DNP健康データ利活用サービス FitStats」に蓄積した生活者個人のヘルスケアデータ等を安全かつ厳格に管理し、利用者の同意を得た上で、独自のアルゴリズムで数値化(スコアリング)し、健康状態を可視化して生活習慣を見直すきっかけとして生活者に提供します。同時に、利用者の同意を得た上で、個人が特定できない状態で企業等にそれらの情報を提供して、マーケティングツールとして活用していただくビジネスを行っています。「FitStats」のユーザーには健康志向が高い方が多く、例えば、これらの健康情報や属性情報などのパーソナルデータを組み合わせて、食品開発などを行う企業の事業に役立ていただけます。私たちが長年、個人情報を扱う事業を行ってきた強みを活かして、情報銀行ビジネスなどを展開しています。(※4)

―今年7月には、メタバースの構築・運用や基盤開発、脳科学とテクノロジーを組み合わせたブレインテック事業を行う株式会社ハコスコをグループ会社にするなど、新たな動きもありますね。

金沢:ハコスコの技術は、とても素晴らしいものがあります。メタバースについては、多くの企業から問い合わせをいただいています。実は、「メタバースがどういうものなのか簡易に試したい」というニーズに対して、今まで大規模なメタバースを構築してきたDNPとして、即座に対応できないという課題もありました。そうした状況に対して、ハコスコが展開する「メタストア」は誰でも簡単にメタバースを構築できますし、すでに行政や金融、スポーツ、展示会などで幅広い利用実績がありました。今回、ハコスコがDNPのグループ会社となったことで、事業の拡大やサービス機能の拡張といった実現可能性が高まったと思います。(※5)

幅広い分野で、パートナーと一緒に「未来のあたりまえをつくる。」

―今後、どのような企業やプロジェクトとの協業を考えていますか?

金沢:私たちはまず、スマートコミュニケーション部門での、早期の新規事業の創出を目指しています。DNPはこの部門で、メタバース等を活かした「XRコミュニケーション事業」をはじめ、サイバーセキュリティやパーソナルデータを活用した「データ流通事業」など、幅広いビジネスを展開しています。特に「未来のあたりまえをつくる。」というDNPの“志”に賛同いただける企業・団体等と積極的に連携して、事業を推進していきます。また、私たちがまだ踏み込んでいない領域で、革新的な技術やビジネスモデルを持つ企業・団体等とも連携しながら、持続的な事業価値を共に創出していきたいですね。


各事例の詳細は以下をご参照ください。

※1:大日本印刷とレノボ・ジャパン 不登校や日本語の指導が必要な児童・生徒に3Dメタバースで居場所と学びの場を提供 | ニュース | DNP 大日本印刷

※2:サイバー攻撃に備えた組織連携トレーニングをメタバース上で実施するコースを開発 | ニュース | DNP 大日本印刷

※3:AMRの移動距離を30%以上短縮する経路最適化シミュレーターを開発 | DNP INNOVATION PORT-大日本印刷株式会社 (dnp-innovationport.com)

※4:DNPのヘルスケア情報銀行サービス「FitStats」を活用、NECが目指すダイレクトなユーザー理解とブランド訴求 | DNP INNOVATION PORT-大日本印刷株式会社 (dnp-innovationport.com)

※5:XR事業、新規事業創出を目的。ハコスコをグループ会社化 | DNP INNOVATION PORT-大日本印刷株式会社 (dnp-innovationport.com)