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2023.9.19
  • CO-CREATION

DNP×ハコスコ|XRコミュニケーションとブレインテックの融合でつくる新たな価値とは

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2023年7月末に発表された、大日本印刷株式会社(以下:DNP)によるハコスコ社のグループ会社化。そのニュースリリースの背景にあるM&Aの経緯をはじめ、両社の狙いと思いは──。DNPから、常務執行役員/ABセンター センター長の金沢貴人氏と、ABセンター XRコミュニケーション事業開発ユニット ユニット長の浜崎克敏氏、そしてハコスコ社から藤井直敬氏と太田良けいこ氏があらためて語らう。

大日本印刷㈱ 常務執行役員/ABセンター センター長 金沢 貴人氏(写真左)
大日本印刷㈱ XRコミュニケーション事業開発ユニット ユニット長 浜崎 克敏氏(写真右)

㈱ハコスコ 藤井 直敬氏(写真左)、太田良 けいこ氏(写真右)

両社の出会いから子会社化に至るまで

まず、なぜハコスコ社がDNPにジョインすることになったのか。子会社化に至る経緯を教えてください。

浜崎:DNP内の部門横断で「XRコミュニケーション事業」を推進しようと始めたのは2021年。その当初から、外部企業との共創・連携により進めていくことを念頭に置いてました。と言いますのも、多人数が同時参加するメタバースを中心とした新しいビジネス領域が立ち上がっていく中、DNPはこれまでクライアントワークとしてCG技術を活用したアウトプットを提供することが主で、自分たちで一から体験価値を作り上げることは経験として少なかった。
つまりDNPが主体的に新しい体験設計、価値提供を作り出すには、従来のDNP内部にはない考え方、発想、クリエイティブ、技術が必要になることが明らかだと考えていました。クリエイティブアソシエーションであるC株式会社と2019年に資本業務提携に至ったのもその狙いのうちのひとつですね。その後も第2ステップ、第3ステップとさまざまなパートナー企業から先行したノウハウを吸収しながら、「未来のあたりまえ」に繋がる価値提供を目指してきた。そういう点ではハコスコ社との合流は良いタイミングだったと感じています。

今回のM&Aにあたり、ハコスコ社としてはどういった経緯でDNPに打診されたのでしょうか。

藤井:今回DNPへの相談にあたり 考えたのは、「ハコスコ社が持っている特徴を活かす一番いいパートナーはどこか?」という問いでした。

もともとハコスコは、ひとつの事業に特化して会社をスケールすることが目的ではなく、さまざまな事業の可能性を探求していかに社会をより豊かにしていくか、という理念で動いている会社です。ぼくらは「現実科学」と標榜していますが、その現実科学をベースに社会をよりよいものにすることを中心に据えているので、「今やっている事業の売上をそのまま伸ばしましょう」というパートナーでは、おそらく我々の価値の半分以下も引き出せないだろうと考えました。

では、どういう人たちと一緒になれば互いにハッピーになるか考えたとき、やはり幅広い領域で事業をおこなっていて社会的インパクトもそれなりの規模の会社なんじゃないか、と。ですので、DNPさんは最初に思いついた候補先で、実際最初にご相談させていただいた会社だったのです。

この期待とアピールを受けて、どのような印象をうけますか?

浜崎:意外でした。社名の通り「ハコスコ」というダンボールのヘッドセットサービスで、すでにかなりの数を展開されていましたから。事実、VR市場が大きく2つあるとすると、ひとつは本格的なHMD(ヘッドマウントディスプレイ領域と、もうひとつがスマホ等を活用したものなのですが、それらの領域がハコスコと、完全に会社名イコールブランド名として広く浸透していましたからね。そこがDNPと完全に合流したいと聞いて、様々な企業とも仕事をされていた経緯も存じ上げていましたので、本当にDNPですかと確認したのと共に先行している会社と一緒になれるのは楽しみでもありました。

またメタストアの存在に関して期待感は強くありましたね。わたしたちは「PARALLEL SITE®」というメタバース上の構築サービスを提供しているのですが、それだとどうしてもシステムの規模感が大きな案件が対象になりがちです。まだまだメタバースやXRの市場がこれからという状況で、より早く、より簡単に実証いただける環境はどうあるべきかと考えていた矢先、昨年夏にハコスコ社から「メタストア」が出てきた。XRコミュニケーションの分野で新たな価値創出を検討するプロジェクトを進めている中で、ハコスコ社の方からM&Aの相談が来た。このタイミングが一致したのが意外でもあり、運と言いますか、ご縁を感じたところです。

金沢センター長はどのような印象を持たれたでしょうか?

金沢:ハコスコ社の魅力は大きく2つあります。まず1つは、ハコスコ社の製品・サービスそのものが、とてもスマートで尖っている点。我々だとどうしてもあれもこれも必要だと肥大化してしまいます。そこを「いま必要なのはこれでしょう?」と製品とサービスが端的でわかりやすく、しかもキュートです。その我々にはない観点が魅力的で、ぜひ一緒に進んでいきたいと。

もう1つは、藤井さんと太田良さんの人間的な魅力です。過去の実績はもちろん、さまざまなことに対する興味、好奇心の強さと深さに惹かれました。我々ABセンターに足りないものを持っているし、一緒に歩むことで我々は貴重な財産を手に入れることになるな、と感じたのです。

ハコスコ社のおふたりが最終的にDNPを選んだ決め手は?

藤井:最初はやはり我々のメタストアという事業から話が始まったのですけど、お話を進めているうちに、ぼくら2人が持っている能力ややりたいこと、未来に対するイメージなどを共有できる方々だなと実感できたのが決め手でしたね。

太田良:DNPに相談する前に、当然コーポレートサイトを拝見したわけですが、そのとき初めてDNPのブランドステートメント「未来のあたりまえをつくる。」を知りました。私としてはもうこの一言で「私も一緒に未来のあたりまえをつくっていきたい!」と思いまして。私たちはハコスコのエグジットの先を「ハコスコシーズン2」と呼んでおりますが、そのテーマにもっともふさわしいと感じました。

また、先ほどお話にも出ていた競合他社とのお話もある中で、おそらくDNPなら「これを作りなさい」という形ではなく、カルチャーを尊重しつつ、共に未来のあたりまえを一緒に作っていけるのではないかと感じたのも決め手でした。ニュースでもDNPの取り組みが頻繁に取り上げられる中、「新しいカタチを作っていく」「これは文明開化だ」という意気込みをお伺いし、この「未来のあたりまえ」を一緒に作らせてもらえたらないいな、ということで参画させていただいた次第です。

藤井:その「ハコスコシーズン2」と言えるようになったのもDNPと一緒になれたからです。これがもし「メタバースの会社に買収されました」だと「シーズン1.5」どまりだったと思います。DNPと一緒になったからこそ本質は変えず、ステージを変えてスケールやインパクトを今よりもっと大きくしていける。それが我々としての喜びでした。

太田良:「なぜ選んだのか?」という質問でしたが、あくまで「選んでいただいた」という立場であり、そこには感謝しかありません。いま我々のようなスタートアップがどんどん増えていますが、一方でエグジットできずに優秀な経営者が立ち往生してリビングデッド化しているケースがたくさんあります。そこをDNPが我々に出口として次の活躍の場を与えてくれた。そのことに対して感謝しかないですし、私達の感謝をできればその先につなげていけたらいいなと。つまり、スタートアップ卒業生として、多様な出口戦略というものを社会に示していけたらいいなと思っています。

新たなスタートを切り、両社が描く「未来のあたりまえ」とは

ディール開始からクロージングの2023年7月までに印象的なエピソードがあれば教えてください。

浜崎:苦労というより、あらためて課題だと感じたのはスタートアップの評価方式です。減点方式は理解できますが、新しい価値を求める姿勢として従来のままでいいのかと首をかしげてしまうシーンがありました。そもそも文化の異なる会社と一緒になるのですし、未来のあたりまえを作る取り組みのひとつとして、評価方式も進化させていかないと、お互いの理解も進まなければ参加者のストレスも高まるばかりではないか、というのが今後の課題と認識した。

実際、登記上の本社社屋としてハコスコカフェが静岡県熱海市にあったのですが、会社機能がメタバース空間においてバーチャルとして稼働していることへの評価は新しい観点での検討でした。

藤井:あれは、おかしかったですね(笑)。

太田良:そんなハコスコカフェに、浜崎さんと金沢さんがリアルに来てくださっているからまた面白い。しかも、ちょうどいらした日にNHKニュースでメタバースのハコスコオフィスが出て、「堅牢でセキュリティに配慮したハコスコ社」として全国に報道されました。プレスリリースでハコスコカフェをバックに、DNPの蟇田専務や浜崎さんが出てくださったことも可笑しかったですね。

ハコスコメタバースオフィスmetastore (hacosco.com)

浜崎:確かに、プレスリリースがもっとも印象的だったかもしれません。プレスリリースは、さまざまなステップを踏んで最後の晴れ舞台です。そのプレスリリースには左から金沢、わたし、藤井さん、太田良さん、弊社蟇田専務と並んでいるのですが、社内から「蟇田専務のあんな笑顔を見たのは初めてだ」「金沢常務のガッツポーズでのリリースってすごいね」と方々から言われました。

あんなににこやかな蟇田専務を見たのは初めてです。そのくらい喜ばしかったんだな、と。

太田良:まさにプレスリリースのエピソードを受けてですが、我々が初めて市ヶ谷のDNP本社に伺ったのがクロージングの日で、一度もその前にリアルでご対面することなく今回のディールをお受けいただいたところに、関係者みなさんの心意気を感じております。

藤井:通常でしたら何度も本社詣でをして「よろしくお願いします!」とお願いするところですが、逆にあのあばら家に2回もお越しいただいて。「ぼくらはなんて常識がないのだ」と思いました。でも、一応うかがいましたよね?「本社に行かなくていいのですか?」と。

太田良:本当にそういった面でもお気遣いいただいて。DNPのお会いする方みなさん優しくて、リスペクトしてくださっていることに感謝ですね。

プレスリリースが出てからちょうど1ヶ月です。この間のみなさんの印象は?

太田良:まずはハコスコのミッションを決めましょう、と箱根・DNP創発の社でみなさんと合宿しました。そこで決まったのが「DNPイノベーション特区として、事業創造〜育成を担う基盤を構築」。ハコスコシーズン2として、このお題をいただき、このパラダイムシフトに携わらせてもらえることにワクワクしています。

浜崎:当初は、ディールの当事者以外のリリースまで知らなかったメンバーがハコスコ社とどう関わっていくのかが課題でした。当初は彼らもとまどっていましたが、この1ヶ月間で見方や目線が変わり、自分たちと一体の部門なのだということを認識してもらえたと思っています。今はハコスコ社やメタストアのポテンシャルを、社員としていかにノウハウ吸収していくかというターム。その変化のさなかです。

金沢:ハコスコには社員以外にも、同社にジョインしている方や、藤井さんが関わるデジタルハリウッド大学をはじめとしたネットワークも刺激的です。ハコスコ社単体で閉じることなくこのネットワークを活用できれば、さまざまな意味でXR業界や新規事業開発の有効なハブになる。そういったことを、あらためて感じた1ヶ月でした。

最後に。両社に対しての期待をスケッチブックに描いてみてください。

藤井:「価値創造」

今までもぼくらは新しい価値を生み出したいと常々やってきましたが、やはりスタートアップですと規模が小さい。DNPと一緒であれば、よりブーストし、幅広い領域、ハコスコ社に閉じない領域にまたがって新しい価値創造ができるのではないかと期待しています。楽しみでしかたありません。

太田良:「イノベーション特区」

先ほどのお話のとおり、イノベーション特区を作ります。そこで起こるパラダイムシフトに乞うご期待です。毎日2人でずっとその話を朝から晩までやっています。夫婦の話題が「未来のあたりまえ」なんですね。

藤井:本当にずっとやっています。我が家ではもちきりなんです。

浜崎:「TRY AGAIN」

組織風土として、考えただけで終わることが多いのも事実。そうなるとトライすること自体が目的化している部分があって、うまくいかなそうだと思ったらやめてしまう。何度でも諦めずに挑戦することが少ないからこそ、慎重で、成功するものしかやらない。結果、遅れをとる。だからこそ、失敗しても諦めずに工夫して挑戦する、TRY AGAIN。そのためにはスピードをもって動ける実験カンパニーであるハコスコの精神が、ABセンターにも良い影響をもたらせばいいなと思っています。

金沢:「変革」

月並みですが「変革」。今回ハコスコ社はDNPグループになりましたが、決してDNPに染まることなく、逆に我々を感化してほしいという期待をもっています。

おふたりから、ハコスコ社に静岡銀行から研修派遣された若い方が、当初大人しかったのが半年で見違えるように積極的になった、と聞きました。価値創造やイノベーション特区はもちろんですが、我々ABセンターの思考パターンや行動パターンを、半年、1年で変革させてほしい。やがてはDNP本体の考え方や仕事のやり方を変えてほしい。そんな気持ちです。

本日はありがとうございました。