AIエージェントはどう育てる?「DNP×AWS AI League 2026」で作って、試して、改善して見えたこと
- AIエージェントの業務活用に興味がある方
- AIエージェントを実際に構築・改善するプロセスを知りたい方
- 社内でAI活用の実践機会やコミュニティを広げたい方
AIエージェントを「知っている」から「作って試す」へ
こんにちは、生成AI活用のCO-CREATIONプロジェクトを推進している神山です。
生成AIの活用が広がる中で、「AIエージェント」という言葉を目にする機会も増えてきました。一方で、実際に自分でエージェントを組み、目的に合わせて動きを調整した経験がある人は、まだそれほど多くないのではないでしょうか。
DNPでは、Amazon Web Services, Inc.(AWS)がグローバルで展開する、AIサービスを使って競い合いながら学ぶ実践型プログラム「AWS AI League」を活用し、DNPグループ向けに2年連続でプライベート開催しました。
AIエージェントを「知っている」段階から、「触る」「作る」「試す」段階へと進める実践型プログラムとして「DNP × AWS AI League 2026」を実施し、2026年は参加対象を全社へ拡大しました。最終的に18組織から700名を超える応募がありました。
本記事では、実際にエージェントを作り、スコアを見ながら何度も改善していった過程を中心に、AIエージェントを「作って試す」ことで見えてきたことを紹介します。
DNP × AWS AI League 2026の取り組みとは?|実践機会を全社へ
DNPはこれまで、生成AIを利用できる環境の整備や、社員がAIに触れ実践的に学ぶ機会の提供を通じて、グループ全体でのAI活用を進めてきました。2025年のイベントでは、生成AIのファインチューニングをテーマに、7組織・336名が参加しました。
2026年は「AIエージェントの構築」をテーマに、参加対象を全社へ拡大しました。ノーコード・ローコードでも開発可能な設計となっており、エンジニアだけでなく、営業・企画・研究開発・管理部門など幅広い職種が参加できるプログラムとしています。結果としてDNPグループ、および、DNPのパートナー企業である株式会社インテリジェントウェイブ、BIPROGY株式会社から700名を超える応募があり、578名が実際にエージェントを提出しました。
狙いは、大会そのものをAI活用の「成果」とすることではありません。まず自らAIエージェントに触れ、作り、試行錯誤する経験を増やし、その経験や知見、部門横断のつながりを、将来の実業務での活用につなげていくことです。
本記事は、一参加者として参加した神山が約2日間、業務の隙間時間に取り組んだ記録を、一般の読者にも伝わるよう再構成したものです。
実際にAIエージェントを作ってみた
Agentic AI Challenge とは端的に言うと「自分でAIエージェントを作り、ダンジョンを攻略させながら、AIエージェント開発の技術を競い・学ぶハンズオン型コンテスト」です。
実際のイベントはオンラインで進んでいるため、よーいドンで始められない以上ある程度イベント慣れている人でなければ、結局何から始めればいいのかわからない状況になってしまいます。かくいう私も何から手を付ければよいか迷子になっていた一人です。とはいえ、触らなければ何も始まりません。そこで、「安全を最優先し、できるだけ確実にゴールする」という一連のワークフローを理解するところから始めました。まずは複雑な設定を加えず、Pathfindingツールで出口までの経路を探し、敵や罠を避けるようにナビゲーションプロンプトを設定して走らせてみました。
最初の結果は2,300点台。ゴールには向かえるものの、途中のクイズでの失敗が目立ちました。ここで初めてクイズの意味が分かってきました。事前にクイズがあるということは知っていたのですが、どういうクイズがでるのか、わかっていませんでしたがそれと同時に次にやるべきことが見えてきました。クイズに答えられる機能(サブエージェント)をつなげるということでした。
1. 「記憶」を持たせる
最初に試したのがメモリの追加です。過去に出た問題や回答、マップ上の観察、ツール実行結果を保持・参照できるようにしました。すると、過去の問題を参照して回答できるようになり、スコアは2,300点台から3,560点へ上昇しました。
2. 「最短でゴール」から「高得点を狙うルート」へ
次に見直したのは、マップ上のルート設定です。最初は最短距離でゴールすることを重視していましたが、それでは安全に取れるコインや挑戦機会を逃してしまいます。そこで、Pathfindingの戦略を「コインを最優先で経由するルート」に変更し、安全な範囲でコインを回収してからゴールへ向かうルートへ切り替えました。
ルートが変わり、スコアは4,900点まで上昇しました。ただし、今度はクイズの誤答が新しいボトルネックになりました。経路を良くするだけではなく、エージェントが途中の課題に正確に答えられる仕組みも必要だとわかりました。
3. 計算や検索専用のツールを用意する
そこで、回答の正確性に関する指示を追加するとともに、AWS Lambad で作った計算問題用のCalculator関数を用意しました。途中のクイズには計算結果を出力させるものがあります。このようなケースではAIが推論するのではなく、AIが専用のツールを呼び出し、ロジックで計算した上で答えを参照させるような仕掛けが必要です。それによりスコアは6,220点まで上がりました。
さらに、マップ上には鍵とそれに対応する鍵付きの扉があり、その先には高得点の課題(間違えると大きく減点!)が待っています。これに対応するため、文字列処理の拡張やWeb Fetch用の関数を追加しました。ここでは一度、鍵・Web検索・扉の問題に連続して失敗し、ライフ切れで713点まで落ちる回もありました。とはいえ、このような試行錯誤を繰り返すことで、「何が足りてなくて、なにを改善すべきなのか」が少しずつ見えてきます。小さく改善→テストを進めることで、7,517点、9,167点、10,241点と段階的にスコアを伸ばしていきました。(振り返れば、小さくアジャイルを進めているような感じですよね。)
4. 正答率だけでなく、経路・コスト・汎用性まで見る
その後は、クイズを取りこぼさないように経路を調整し、すべてのコインとクイズを通るルートを作りました。この段階で11,966点まで到達し、さらにプロンプト圧縮と経路最適化を進め、12,025点まで上げることができました。
この時点でライフ満タン、クイズ全問正解、コイン全回収ができている状態までもってこれたのですが、ここからが本番でした。というのも、実際はリーダーボードにチューニングしたエージェントを提出することで未知のマップに対しての点数が分かります。このリーダーボードの点数が、実際のランキングとして採用されます。そしてリーダーボードの結果を見てみると、当然のごとく上位には食い込めません。なぜなら、皆さんライフ満タン、クイズ全問正解、コイン全回収を達成したうえで、トークン消費量を極端に節約しているのです。つまり、如何にトークンを節約して点数をあげていくかが本当の戦いだと気付いたのです。
※少ないトークン数ほど追加のポイントがもらえるトークンボーナスというものがあります。
ここからは、何が問題なのかを一つ一つ状況を分析しながら試行錯誤していくフェーズです。たとえば、この時私の設計では経路探索の最適化ができておらず、往復するシチュエーションが多くありました。経路探索が最適化されていないと、無駄な経路情報(実際には x,y で1ステップごとの移動先をエージェントに渡している)が増えてしまい、無駄なトークンとしてカウントされてしまいます。ですので、経路探索を最適化する=トークン節約=高得点につながるわけです。
そこで、鍵や扉の位置をマップ情報から取得できるようにし、複数の鍵・扉にも対応できるよう汎用化を試しました。また、ルート探索をNavigator、計算問題をChallenger、Web検索をResearcherに分け、Supervisorが各サブエージェントを使い分ける構成にも挑戦しました。
(Navigatorがpathfinding、Challenger が Calculator 関数を持つような、1:1 の機能を持たせたサブエージェントのイメージです)
ただし、サブエージェントを増やすと、その分トークンコストも増えます。最終的には、コスト削減を意識して機能の全部をSupervisor側に集約し、URLが与えられていない検索問題でループしないよう、本大会のルールで認められた範囲で、外部の検索APIを追加しています。
このように限られた期間の中で様々な改善を組み合わせて試行錯誤を高速に行っていました。
結果どうだったのか?
結局のところ私は提出者578名中 30位という結果に終わってしまいました。(6位以内に入ると決勝大会に進出&素敵な景品があったんです!)
内訳としてはライフ満タン、クイズ全問正解、コイン全回収まではいけたのですが、使用トークン数が1,574で、トップとの差は約500ほどあったという状況でした。
いろいろ試行錯誤しながらトークン削減のための施策を試行していたのですが、力及ばずの結果になってしまいました。
スコアの変化から見えた改善の流れ
私の取り組みを簡単に時系列で整理すると次のような感じになります。
| 段階 | 主な改善 | スコアの目安 |
| 初期 | 安全優先・最短経路 | 2,300点台 |
| 記憶・出力制御 | メモリ追加、出力形式調整、ガードレール設定 | 3,560 → 4,290 |
| 経路戦略 | コイン優先、高得点ルート探索 | 4,900 |
| ツール拡張 | 専用関数追加(Calculator、Web Fetch、文字列処理) | 6,220 → 7,517 |
| ルート+検索改善 | 鍵・扉・問題順序、Web検索改善 | 9,167 → 10,241 |
| 全課題クリア | 全コイン・クイズを通る経路 | 11,966 |
| 最適化 | プロンプト圧縮、経路・コスト調整 | 12,025前後 |
書き出してみるといろいろやってきていますね。それが少しずつスコアとして結果に返ってくる過程は、まさにゲーム感覚で楽しみながら、学べていた感覚がありました。
やってみてわかった、AIエージェント構築の3つのポイント
1. プロンプトだけはなく、「記憶」と「道具」を設計する
今回の試行錯誤で大きかったのは、プロンプトの言い回しを変えること以上に、必要な情報を記憶できるようにすること、計算や検索を専用ツールに任せることでした。AIエージェントでは、「何を考えさせるか」だけでなく、「何を覚えさせ、どの道具を使わせるか」まで含めて設計する必要があります。
2. 目の前の正解と、汎用性・コストのバランスを取る
高得点を目指すほど、特定のマップに最適化したくなります。一方で、業務で使うことを考えると、特定条件だけで動く仕組みでは十分ではありません。また、サブエージェントを増やせば役割は整理しやすくなりますが、トークンコストは増えます。正答率、汎用性、処理コストを同時に見る必要がありました。
3. 実行ログを見ながら「失敗の理由」を切り分ける
スコアが下がったときも、「AIが弱い」で終わらせず、経路の問題なのか、記憶なのか、検索なのか、一つずつ切り分けました。実際、一度713点まで落ちた回も、その失敗が次の改善につながっています。エージェントを育てるには、実行結果を観察し、仮説を立て、修正して再実行するサイクルが欠かせないと感じました。
決勝会場のレポート|白熱した戦いの先にあるものとは
決勝会場は会社のスペースを確保して参加者および観戦者が一堂に集まって行われました。
予選を勝ち抜いた参加者たちが集まった決勝会場では、開始直後から独特の緊張感に包まれていました。
参加者は、自身が組み上げたAIエージェントにて準決勝、決勝専用のマップで高得点を獲得するために、プロンプトやワークフローを懸命に調整する姿が見られ、限られた時間の中で試行錯誤を繰り返していました。
構築されたエージェントにも、それぞれの個性が表れていました。検索能力を強化したエージェント、役割ごとにサブエージェントを分担させたエージェント、トークン消費量の削減を追求したエージェントなど、同じ課題に対しても多様なアプローチが存在しており、参加者一人ひとりの創意工夫を感じることができました。
運営メンバーとしても特にうれしかったのは、「とりあえず触ってみる」から「自分なりに改善してみる」へと参加者の姿勢が変化していったことです。大会期間中には、社内SNSやコミュニティでの情報交換も活発に行われ、部門を越えて知見を共有する動きが広がりました。
もちろん大会である以上、順位やスコアもひとつの結果です。しかし、本イベントで得られた価値はそれだけではありません。参加者一人ひとりが試行錯誤しながら得た知見やノウハウ、そして部門を越えたつながりこそが、今後のDNPにおけるAI活用を支える大きな資産になると感じています。
まとめ|「まず作ってみる」ことから、AIエージェント活用は始まる
今回、実際にAIエージェントを作ってみて感じたのは、知識として理解することと、自分で動かして失敗してみることの間には大きな差があるということです。
メモリを追加する、ツールを使わせる、経路を変える、役割を分ける、トークンコストを抑える。実際に動かしてみると、AIエージェントにはさまざまな設計の選択肢があり、その一つひとつが結果に影響することがわかりました。
本イベントが目指しているのは、大会で高得点を取ることだけではありません。一人ひとりが「まず触ってみる」「作ってみる」「試してみる」経験を持ち、その学びを組織の知見や実業務での活用につなげていくことだと思います。今回得た経験も、AIエージェントをどの業務で、どのように使えるのかを考える次の一歩につなげていきたいと思います。
DNPでは今後も、こうした実践を重ねながら、AIを活用した新たな価値創出に取り組んでいきます。そして、そこで得た知見をDNPの中だけにとどめるのではなく、さまざまな企業・パートナーの皆さまと掛け合わせることで、新しい事業やサービスの可能性を広げていきたいと考えています。
AIエージェントや生成AIを活用した新たな取り組み、一社だけでは解決できない課題、新しい事業のアイデアなどがありましたら、ぜひ一緒に考えてみませんか。
DNP INNOVATION PORTでは、これからも社内外の皆さまとの共創を通じて、新しい価値の創出に挑戦していきます。
DNP INNOVATION PORTについて
私たちは、新規事業のタネや挑戦する人たちが集まる「共創の出発地」になることを目指しています。
新規事業を形にする挑戦の歩みに共感いただき、新しい価値づくりに共に取り組んでいただける共創パートナーのみなさまを募集しています。
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