日本発のクリエイティブを世界に届ける|CEKAI井口皓太氏インタビュー後編
- クリエイティブ領域での共創や、新しい表現体験の創出に関心のある事業者・団体
- 空間・映像・コンテンツを横断した新たな表現づくりに関心のある企業・団体
- XR・イマーシブ演出など、没入型コンテンツや空間体験の設計に関心のある事業者・団体
クリエイティブアソシエーションCEKAIの共同代表として、ニューヨークと東京を拠点に活動する映像デザイナー/クリエイティブディレクターの井口皓太氏。インタビューの前編では、ギンザ・グラフィック・ギャラリー(以下、ggg)での企画展「井口皓太 モーショングラフィックス」を入り口に、3組のクリエイターとの共創のプロセスを聞きました。後編では、井口氏が考えるモーショングラフィックスの可能性、グローバルでの仕事で見えてきた日本のクリエイティブの価値について伺います。
インタビュー前編は下記からご覧ください
目に映るものはすべて映像。拡張するモーショングラフィックス
——井口さんは、モーショングラフィックスの可能性をどのように捉えていますか。
井口:僕は、目に映っているものはすべて映像と言えるんじゃないかと思っています。自分がカメラだとしたら、見えているものは全部映像ですよね。
例えば、打ち上げ花火は素晴らしい映像体験だと思います。ヒューっと音が聞こえてきて距離を感じ、ドーンという瞬間を大勢の人が少しずつ違う場所から見上げている。プロジェクションマッピングをはじめ、テクノロジーによって映像体験は進化していますが、あの劇場型の体験にはいまだかなわないと感じています。花火は光の像なので、僕にとっては映像と同じなんです。
もう1つ、自分の中で大きなインプットになっているのが、以前5年ほど住んでいた京都での時間です。京都の寺には石庭がよくありますよね。あの石はまったく動かないのに、縁側を数歩歩くと、石の重なり方が変わって、さっきまでとは違う景色になる。動いたのは自分だけなのに、止まっているはずの庭が、ゆっくりと動く映像のように見えてくる。それが、僕には心地いいんです。
花火も石庭も、いわばモニターの外にある映像体験です。そういう時間の感覚は、自分の作品にも反映されていると思います。
実際、僕はモーショングラフィックスを、庭をつくるようなイメージで制作しているところがあります。庭をゆっくり歩きながら、時々座って眺める。そんな時間のあり方まで含めて映像だと考えると、モーショングラフィックスも、画面の中だけで考えるものではないと思います。
——テクノロジーの進化で表現できることが広がるなかで、井口さん自身のクリエイティブも変わってきているのでしょうか。
井口:自分の考え方が変わったというより、表現できる環境が追いついてきた感覚です。先日のギャラリーツアーでも、「井口さんの考えていることは昔から変わっていなくて、それがちょうど時代と噛み合ってきただけなのではないか」と言われて、本当にその通りだなと思いました。
もともと、新しいテクノロジーに強い関心があるタイプではないんです。単純に空間や時間が好きで、グラフィックも平面の中だけではなく、時間や空間の中で捉えてきました。ただ、これまでの仕事では、その感覚をCGで立体的に表現しても、最後は平面のモニターに収めることが多かった。せっかく空間として考えたものを、もう一度平面に戻す。いま思えば、少し変な作業ですよね。
それが最近は、立体的なモニターやLEDが現実に出てきたことで、空間として考えたものを、そのままみせやすくなってきました。球体のLEDなら、球体だからできることがある。モニターが90度曲がるだけでも、表現できることは増えます。最先端技術をみせたいわけではなく、今だから形にできることが増えているんです。
街に出れば、そのスケールはさらに大きくなります。ニューヨークのタイムズスクエアなんて、モニターでできている都市みたいな場所じゃないですか。ああいう環境と、自分の頭の中にある映像的な処理が合ってきている実感があります。
この先はモニターの形が変わるだけでなく、物自体が動く未来もあり得るかもしれません。舞台芸術でセットが動いて場面が変わるように、都市の形そのものが変わっていく。そう考えると、モーショングラフィックスは、画面の中の映像に限らず、空間や物の動きまで包有して考えられる表現なのだと思います。
その一方で、モーショングラフィックスは、街中のサイネージやスマートフォンなど、あらゆる場所で目にするものになりました。どこにでもあるからこそ、一つひとつは軽く流されてしまう。だからこそ、グラフィックを動かすことを、単に画面に変化をつける行為ではなく、時間や空間をどう設計し、見る人にどう届かせるかという視点で捉え直したいと思っています。
日本発クリエイティブの価値を最大化する
——現在はニューヨークを拠点に、さまざまなクライアントワークに携わられていますね。企業との仕事ではクライアントの要望とどのように向き合っていますか。
井口:僕はクライアントワークもコラボレーションの一部だと捉えています。「要望に縛られて窮屈ではないのか」と聞かれることがありますが、あまりそう感じたことはありません。
プロジェクトには、ブランドを守りたい人、商品やサービスをきちんと伝えたい人、ユーザーに届くものにしたい人など、いろいろな立場の人が関わっています。それぞれがよくしたいと思っているからこそ、意向が重なって複雑になることもある。その中で、どう情報をつなげて美しく仕上げるかが、デザイナーの根本です。
——海外のクライアントとの仕事では、日本らしいクリエイティブを求められることはありますか。
井口:和や侘び寂びのような、わかりやすい日本らしさを求められる案件はほぼありません。ただ、アニメが広く受け入れられていることもあり、「日本人がアニメーションを下手なわけがない」という感覚はアメリカにもあると思います。手先が器用で、丁寧につくるというイメージもありますね。
アメリカにも優れたクリエイターはたくさんいます。だからこそ、海外の仕事では、CEKAIに何を期待されているのかを意識するようになりました。求められているのは、流暢な英語でまくし立てることではなく、時間をかけて丁寧にモーショングラフィックスをつくることなんです。
そうした感覚も自分たちのアイデンティティだと思うので、そこを信じてやっています。僕にとっては、モーショングラフィックスそのものが自分の言語ですね。
——海外で仕事をするなかで、意識していることはありますか。
井口:海外で仕事をするようになってからは、かえって日本やアジアのことを考えながらつくるようになりました。
大事なのは、現地のやり方に合わせることではなく、自分たちが持っているものを広げることだと思います。日本人はつい向こうにチューニングしがちですが、僕はむしろ、自分の中にある日本的な感覚や美意識を、最大限発揮することを意識しています。
激しく動く表現で張り合っても、噴水のように豪快な海外の発想には勝てません。だったら、動きは控えめでも、こちらのほうが美しいでしょうという姿勢で見せたほうがいい。石庭で感じてきたような強く主張しなくてもずっと見ていられる表現は、自分の中ではとても日本的なものと捉えています。
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日本のクリエイティブを世界へ届けるために
——CEKAIでは海外の案件を日本のクリエイターと組んで制作することも多いそうですが、国を跨いだものづくりに課題はありますか。
井口:チーム体制ですね。海外のクライアントは、わざわざ日本人である僕らに頼んでくれています。だったら、その仕事は現地のスタッフを集めて完結させるのではなく、日本のクリエイターと組んでつくりたい。
gggの企画展では、これまで手がけてきたクライアントワークの映像も流しましたが、その中にも、アメリカで受注して、日本側のCGチームと組んでつくったものがあります。そういう仕事は増えている一方で、現状では僕のスケジュールが埋まると止まってしまう。仕事はあるのに、制作体制が追いついていません。
もっと大きく見ると、中国や韓国は、組織ぐるみ、国レベルで海外を狙っている印象があります。例えば韓国には、ニューヨークで学んだ人が帰国して、その経験をチームや教育に還元する流れがある。一方で日本人は個人単位で点在していて、海外で得たノウハウが、その人限りで終わってしまうことが多い。だから、知見が積み上がりにくく、ネットワークも育ちにくいと感じています。
今、日本への注目は高まっています。この機会にクリエイティブの分野でも日本と海外をシームレスにつなげる体制をつくりたい。CEKAIが、日本のクリエイターが世界へ出ていくためのハブのような存在になれたらと思っています。
——DNPはCEKAIグループの持株会社と資本業務提携を結んでいます。日本のクリエイティブを世界へ届ける体制づくりに、この共創はどう活きるでしょうか。
井口:DNPは印刷技術にとどまらず、幅広い領域に事業を展開していて、インフラに近い存在だと思います。僕が抱くDNPのイメージは「大きなお皿」ですね。対してCEKAIは、一点突破でカッティングエッジな場所に入り込む「小さく鋭い針」のようなチームです。
僕らが生み出したクリエイティブを、ネットワーク化したり、プラットフォーム化したりすることは、CEKAIだけではできません。クリエイティブチームの仕事は、どうしても一度きりで終わりがちです。でも、それをアーカイブして再現できる仕組みをつくれば、1社の売上だけの話では終わりません。クライアントとクリエイターが直接つながり、「こうしたら面白い」と話せる場が増えることは、つくり手が健やかに働ける環境にもつながると思います。
その成果を、次の仕事や次のクリエイターにつながる形で残したい。DNPの持つネットワークや事業基盤と、CEKAIの現場で生まれるクリエイティブを掛け合わせながら、単発で終わらないものづくりの仕組みを一緒につくっていきたいと考えています。
今回の記事はいかがでしたか?
今後も、CEKAIとの取り組みやその展開に関するレポートなどを、DNP INNOVATION PORTで掲載していきたいと思いますので、どうぞお楽しみに!
本記事をお読みいただき、CEKAI/DNPによる活動にご興味をお持ちの方は、ぜひこちらからお問合せください。