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2026.07.31

平面のグラフィックに、時間と空間を与える。|CEKAI井口皓太氏インタビュー前編

平面のグラフィックに、時間と空間を与える。|CEKAI井口皓太氏インタビュー前編
この記事はこんな人におすすめ
  • クリエイティブ領域での共創や、新しい表現体験の創出に関心のある事業者・団体
  • 空間・映像・コンテンツを横断した新たな表現づくりに関心のある企業・団体
  • XR・イマーシブ演出など、没入型コンテンツや空間体験の設計に関心のある事業者・団体

クリエイティブアソシエーションCEKAIの共同代表であり、映像デザイナー/クリエイティブディレクターとして国内外で活動する井口皓太氏。その彼の企画展「井口皓太 モーショングラフィックス」が、2026年5月〜7月にかけて、DNP 文化振興財団が運営するギンザ・グラフィック・ギャラリー(以下、ggg)で開催されました。

長年にわたり、グラフィックを動かして時間と空間を与える表現に取り組んできた井口氏が今回の展示で試みたのは、モーショングラフィックスをもう一度グラフィックデザインの文脈で捉え直すこと。3組のクリエイターとの共創のプロセスから、そのモーショングラフィックス観を紐解きます。

モーショングラフィックスを「グラフィックデザインの延長」としてみせる

——「井口皓太 モーショングラフィックス」展は、どのようなきっかけで始まったのでしょうか。

井口:実は、DNPとは学生時代からの縁なんです。当時、僕らがやっていた展示会をDNPがサポートしてくれていて、「いつかgggで個展をしたいです」と話していました。今回の企画展が決まったとき、DNPの方から「20年ほど経って、ようやく実現しましたね」と言われ、改めて当時のことを思い出しました。

準備にあたってgggの方から最初に相談されたのが、「井口皓太でやるのか、CEKAIでやるのか」でした。gggはグラフィックデザインを専門とするギャラリーです。一方、CEKAIにはアーティストやペインター、実写監督などさまざまな作り手がいます。そう考えると、CEKAIという単位でgggの展示に落とし込むのは難しいと感じました。

ただ、僕のものづくりの根っこには、常にコラボレーションがあります。もともとは自分がつくったグラフィックを動かすところから始まりましたが、徐々に動かすことの専門家になり、いろいろな才能と組むことで、より多彩なものがつくれると感じるようになったんです。

そこで、僕がやってきたモーショングラフィックスを「グラフィックデザインの延長」としてみせられないかと考えました。「モーショングラフィックス」展として自分の名前で行い、CEKAIの仲間や外部のクリエイターに関わってもらう。そうすることで、多様な才能とコラボレーションして作品をつくるというCEKAIのあり方も伝えられるだろうと思ったんです。

——平面のグラフィックを展示してきたgggで、動くグラフィックを見せることには、どんな意義があるのでしょうか。

井口:僕のなかには「グラフィックとは何か」という問いがずっとあります。もともと、何でも空間と時間で考える癖があって。人の目が動けば平面も動的に見えるし、ポスターですら立体的に見えてしまう。見え方が絶えず変わるものを、どこで区切ってグラフィックと呼ぶのか。そんなことを考えていました。

僕が大学を卒業する頃は、「紙媒体がなくなるかもしれない」と言われていた時代でした。街中のアナログな看板は次々と液晶に置き換わり、モニターでグラフィックをみせることがあたりまえになっていった。そうした環境で、静止したグラフィックをそのまま映すだけでなく、動きを加えたほうが面白いと思うようになり、自然とモーショングラフィックスに向かったんです。

今思えば、モーショングラフィックスは、グラフィックデザインを現代へアップデートする表現なのかもしれません。だとすれば、自分がやってきたことをグラフィックデザインのカテゴリーに置き直したとき、何が見えてくるのか。それが今回の展覧会のテーマの1つです。

平面から映像へ、映像から空間へ

——ggg1階の展示室では、「幾何図形×規則性」「文字×身体性」「紙×連続性」をテーマに、3組のクリエイターと制作した新作が並びます。これらの作品はどのような考えから生まれたのでしょうか。

井口:普段の僕の仕事は、平面のグラフィックに時間や動きを加えて、モニターの中でみせる表現に変換することです。言ってみれば、グラフィックを最後はモニターの中にしまい込んで終わります。

今回は、その流れを逆から考えました。モニターの中に収めてきたグラフィックを、もう一度外へ引き出して、リアルな空間でみせることはできないか。1階の展示は、この問いかけから出発しています。

会場では、中央の柱に3つの新作それぞれのポスターとモニターを配置しています。ポスターのグラフィックがモニターの中で動き出し、最後は光や立体となって空間へ飛び出していく。平面から映像へ、映像から空間へと続く変化を、3作品を通してみせる構成にしました。

1F展示空間中央の柱の3面それぞれに、新作の基となったモチーフのグラフィックポスターとモニターを配置(画像内右)。平面から映像へ、映像から空間・立体へとモチーフが変化していくさまを展示構成でも表現している

——3組のクリエイターとは、どのように制作を進めたのですか。

井口:カンディンスキーが、現在のグラフィックデザインの基礎となる「点・線・面」を定義してから、ちょうど100年。今回、最初に決めたのは、この歴史的な概念を大きなテーマに据えることです。それぞれのグラフィックデザイナーには、このテーマを基盤にグラフィックをつくってもらい、そこに僕が動きを与えることで、新たなグラフィックデザインの可能性を探りました。

「点」をテーマにした石井伶さんとの「Pointless Clock」は、幾何図形を重ねたグラフィックをもとに、時間の流れを表現した作品です。文字盤や針があるわけではないのに、点や図形の動きによって時間が進んでいるように感じられる。点という最小単位にルールを与えることで、時計のようで時計ではないものが生まれる面白さがありました。

石井伶氏とのコラボレーション作品「Pointless Clock」  撮影:伊丹豪

「線」をテーマにした三重野龍さんとの「Outline Light」は、三重野さんが描いた文字のグラフィックを立体で表現し、光を走らせた作品です。最初に「何の文字を書く?」と聞いたら、「ストレートに『線』を書きたい」と返ってきて、方向性が決まりました。

三重野さんには、空間の中に文字を書くようなイメージでグラフィックを依頼。奥行きまで意識して描かれた文字を僕がモーショングラフィックスに起こすところまでは、モニターの中で完結するいつもの仕事と同じです。今回はさらに、その文字を実物の線として空間に組み上げ、筆致をなぞるように光を走らせました。

三重野龍氏とのコラボレーション作品「Outline Light」 撮影:伊丹豪

「面」をテーマにした佐々木拓さん、金井あきさんとの「Multiplane book」は、紙の質感や連続性を手がかりにした作品です。最初は、「紙がバサバサしているような感じがほしいね」という、ざっくりした会話から始まりました。

紙が重なり、めくられていくような感覚をどう表現するかを考えるなかで辿り着いたのが、「飛び出す絵本」と「めくりカレンダー」を組み合わせる発想でした。そこからグラフィックに落としてもらい、紙の面が連続しながら動く作品になっていったんです。

佐々木拓氏、金井あき氏とのコラボレーション作品「Multiplane book」  撮影:伊丹豪

3作品に共通しているのは、グラフィックをつくる段階から一緒に考えていること。いろいろな才能を持った人たちとコラボレーションしながら、最終的なアウトプットは僕がディレクションし、自分でもモーショングラフィックスをつくる。そのプロセスは、CEKAIで普段から行っているものづくりと同じです。

映像に、始点と終点をつくらない

——地下の展示室には、これまで井口さんがクライアントワークで手がけてきた映像作品が並びました。どのような意図で構成されたのですか。

井口:地下では、これまでCEKAIで手がけてきた仕事を中心に、自分が関わってきたモーショングラフィックスを複数のモニターで見せています。自分の作品をまとめて並べるのは、初めての機会でした。

普段は一つひとつの仕事に向き合っているので、それぞれ別のプロジェクトとして捉えています。でも、まとめて並べてみたら、自分の中にある共通したルールやリズムが見えてくるのではないかと考えたんです。

実際に作品を見渡してみると、「やっていることは昔からあまり変わっていないな」というのが正直な実感でした。作品ごとにクライアントや目的、見た目が違う。それでも、自分が気持ちいいと思う動きやダイナミズムには、通底するものがありました。


——具体的に、どのような共通点が見えてきたのですか。

井口:例えば、動きの入り方や止まり方、画面の中でどこに視線を導くか。細かい判断の積み重ねに、自分らしさが出ているのかもしれません。

モーショングラフィックスはアイキャッチとして使われることが多いので、世の中には動きの大きい作品がたくさんあります。でも僕自身は、動きが前に出すぎると少しうるさいと感じてしまう。

ゆっくり動いているけれど、図形同士が触れるか触れないか、画面の端をすり抜けるかどうか。わずかな間合いやタイミングで、動きが心地よく見えるかが決まる。僕は、そのギリギリを攻めるような、すっと抜けていくダイナミズムが好きなんです。

映像に始点と終点をつくらない、という意識もあります。いつから見はじめてもよくて、なんとなくずっと見ていられる。時間に縛られずに眺められる映像が、僕のモーショングラフィックスの特徴だと、改めて気がつきました。

——地下展示の一角には、「ダメフィッシングクラブ」と題した、CEKAIの釣り部を紹介する空間があります。

井口:展示空間外にあるこの一角は、僕の個人的な趣味に関するブースとして展開しようと思いました。僕の場合はそれは釣りだな、と。CEKAIの釣り部は、役職も年齢も関係なく、みんなで遊べる大事な場なんです。

モーショングラフィックスで設計しているのは、モニターの中の時間や空間の感じ方です。ただ、突き詰めていくと、リゾートホテルや宿のような、体験そのものの設計へ広がっていく予感もあります。

その中で、同じ場所に身を置いてみんなで同じ時間を共有する釣りは、僕にとってリッチな体験になっています。今回の展示で、作品だけでなく、そうした時間のあり方まで少しみせたかったんです。

井口さんを中心にCEKAIの釣り好きが集まる「ダメフィッシングクラブ」の展示区画 撮影:伊丹豪

8/17公開予定のインタビュー後編では、井口氏が考えるモーショングラフィックスの可能性、グローバルでの仕事で見えてきた日本のクリエイティブの価値について伺います。

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