「本が読まれ続ける未来を。」なぜ私たちは出版流通を変えようとしているのか
- 出版コンテンツの新しい可能性を広げたい事業者
- 本との新しい出会い方や読書体験を共創したい事業者
- データやテクノロジーで出版流通の未来づくりに挑戦したい事業者
DNPは「本が読まれ続ける未来を。」を目指し、出版流通のあり方を見直す取り組みを進めています。
本を必要とする人へ必要な本が届く仕組みや、本との新しい接点・体験を生み出す仕組みづくりの挑戦するために、このプロジェクトでは私たちの想いや活動を発信していきます。
本稿では、このプロジェクトのオーナーであり、DNPが市谷で営む本屋・外濠書店の店長も務める筆者が、自身の原体験やDNPの出版営業として感じた課題を通じて、これからの出版流通に必要なことを考えます。
執筆者
大日本印刷株式会社 出版イノベーション事業部構造改革推進本部未来創造部
外濠書店店長 外濠書店(@sotoborisyoten)さん / X
前山春菜
DNPが出版流通構造改革に取り組む理由
2024年から2025年にかけて、DNP出版イノベーション事業部では「未来創造プロジェクト」が進められました。
このプロジェクトは、新たな事業やサービスを検討するものではなく、2035年以降を見据えた出版流通の未来像を描き、その実現に向けて今何を行うべきかを考える取り組みです。
DNPは出版物の製造を祖業とし、長年にわたり出版流通の構造改革に取り組んできました。しかし、出版市場の縮小は続き、書店は減少し、本を読む人も減っています。
市場環境が大きく変化するなかで、これまでの延長線上にある取り組みだけでは、出版文化や出版産業を持続可能なものにすることは難しいという認識に至りました。
未来創造プロジェクトでは、「本が読まれ続ける未来を。」目指し、2035年の理想像から逆算して考えるバックキャスティングの考え方を採用しました。
出版物の「つくり方」だけでなく、「届け方」、さらには生活者の出版物への期待そのものを含めて見直し、業界全体の持続可能性を実現しようとしています。
現在、未来創造プロジェクトは構想のための時限組織から、構想を実現するための未来創造部へと形を変え、プロジェクトで描いた構想に基づいて「未来の出版流通プラットフォーム」の構築を進めています。
書店が売りたい本を発掘できる仕組み、必要な部数を必要なタイミングで供給できる仕組み、出版社に新たな機会を提供する仕組みなど、従来とは異なる流通モデルの実現を目指しています。
書店が売りたい本を生み出せる “未来の出版流通プラットフォーム”の構築を開始 | ニュース | DNP 大日本印刷
DNPが運営する「外濠書店」での新しい本との出会い方の検証、復刊支援サービス「Re文庫」、グローバルPODの展開なども、その挑戦の一環です。それぞれの取り組みは個別の事業ではなく、「本が読まれ続ける未来を。」実現するための実証実験でもあります。
未来創造プロジェクトは、出版流通の未来を構想するプロジェクトでした。
その背景には、プロジェクトに関わる一人ひとりの問題意識や原体験があります。
なぜ私はこの取り組みに共感したのか。なぜ出版流通構造改革が必要だと感じているのか。
DNP INNOVATION PORTでの連載第一回となる本記事では、DNPで出版流通構造改革に携わる一人として、私自身が出版とどのように出会い、この出版流通の未来を描く取り組みにどのような思いで加わったのかを記したいと思います。
原体験から問い直す。出版とは何だったのか
私は地方の出身です。
子どもの頃、毎月一冊、雑誌を買ってもらえることが何よりの楽しみでした。
近所に書店はありましたが、校区外にあり、親に車で連れていってもらわなければなりませんでした。それでも発売日を過ぎると(地域的に発売日より数日遅れでの入荷でした)書店へ向かい、新しい雑誌を手に取る時間を心待ちにしていました。
小学校3、4年生の頃だったと思います。
定期購読していた雑誌には毎号応募券が付いており、集めると読者プレゼントがもらえる企画がありました。しかし、あるとき一枚だけ応募券をなくしてしまったのです。
次の号を受け取りに行った際に書店のおばあちゃんへ相談すると、出版社へ問い合わせの電話をしてくれました。そのおかげで私は無事に読者プレゼントを受け取ることができました。
地方の小さな書店が動いてくれたこと。そして東京の出版社がそれに応えてくれたこと。その体験は今でも鮮明に覚えています。
振り返れば、この出来事が私の原点だったのかもしれません。
大学でも、主専攻とは別に自主研究として出版流通を取り上げ、本や雑誌がどのように届けられるのかを学び、書店がどのような社会にとってどのような意味を持つのかを考えてきました。
そして、本の流通の川上から川下まで関わりたいという思いでDNPへ入社しました。
現場で感じた危機感
出版市場の縮小は以前から知識として知っていました。しかし、出版営業として出版社のお客様と向き合うなかで、その現実を肌で感じるようになりました。
長く続いてきた雑誌が休刊する。
書籍の発行部数が減少する。
市場全体が少しずつ縮んでいく。
DNP自身も何百万部という大部数の雑誌を短期間で製造できることを強みとして発展してきました。また、多くの出版社や取次、書店も、大量生産・大量流通を前提とした仕組みのなかで事業を続けてきました。
しかし、その前提そのものが崩れ始めています。
私は次第に、このままではDNPの出版事業だけではなく、出版業界全体が大きな転換点あるいは崩壊を迎えるのではないかという危機感を抱くようになりました。
本が読まれないのではない。本が届けられなくなっている
出版業界の課題として、「活字離れ」や「本が読まれなくなった」という言葉がよく使われます。
もちろんそうした側面もあるでしょう。しかしプロジェクトでの調査を通じて私は、問題の本質はそこだけではないと考えるようになりました。
現在の出版流通は、3000社を超える出版社、ごく少数の取次会社、約1万店の書店によって支えられています。
この仕組みは、大部数の雑誌を全国に届けるように構築されました。しかし、生活者の情報の取り方も、本の買い方も大きく変わっています。
インターネットやSNSの普及によって情報へのアクセス方法は多様化し、人々の興味関心も細分化しました。それにもかかわらず、流通の仕組みはかつての大量生産・大量流通モデルを色濃く残したままです。
その結果として起きているのは、「読者がいない」ことではなく、「時代に合った形で読者へ届ける仕組みが十分に整っていない」ことではないでしょうか。
業界全体最適への転換
私は、返品前提の流通や商流は必ず見直さなければならないと考えています。
出版は文化であると同時に産業です。
需要がなければ、本を作り続けることも届け続けることもできません。
雑誌が売れていた時代には合理的だった大量配本・大量返品の仕組みも、現在では大きな負担になっています。半分以上が返品される商品を作り、運び、保管し、処理する。そのコストを業界全体が負担しています。
もちろん、この仕組みがこれまで日本の出版文化を支えてきたことは事実です。しかし物流や人手不足、製造コストの上昇を考えると、業界全体のキャッシュフローや物流、製造のあり方を根本から設計し直す必要がある段階に来ていると感じています。
だからこそ私が共感しているのは、未来創造プロジェクトが掲げる「業界全体最適」という考え方です。
出版社、取次、書店、製造会社、それぞれが個別に頑張るだけでは限界があります。必要なのは、これからの時代に合った新しい流通の仕組みを、業界全体でつくることだと思っています。
私たちが残したい未来
私は2035年に、本好きのためだけの出版ではなく、より広く開かれた出版が実現していてほしいと思っています。
地方に住んでいても、多様な知識や物語に触れられること。子どもたちが本を通じて可能性を広げられること。経済的な背景や地域によって知へのアクセス機会が左右されないこと。
私自身、本や雑誌を通じて世界を知りました。出版物を通して遠くの世界や人類が積み重ねてきた知識に触れることができたからこそ、今の自分があります。
だから私は、出版という営みを残したいのです。
ただし、それは過去の仕組みを守り続けることではありません。出版や印刷が長い歴史の中で蓄積してきた知を、時代に合った形で届け続けること。そして新しい知を未来へつないでいくことです。未来創造プロジェクトから始まったDNPの未来の出版流通プラットフォームの構築は、そのための挑戦です。私たちは「本が読まれ続ける未来を。」目指しています。
その第一歩として、まずは本を届け続けられる仕組みをつくること。その必要性を、強く感じています。
この想いに共感いただけるスタートアップや事業者の方、実現する手段としての技術や仕組みをお持ちの企業の方、ぜひこちらからお問い合わせください。
次回以降の連載では、「本が読まれ続ける未来を。」つくるためにDNPが行っている取り組みについて、それに携わる人にフォーカスしながら紹介していきたいと思います。