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2025.05.19

デジタルツインで切り拓く製造・物流DXの未来。DNPとiPXが資本業務提携で目指す新たなマーケットの形とは?

デジタルツインで切り拓く製造・物流DXの未来。DNPとiPXが資本業務提携で目指す新たなマーケットの形とは?
この記事はこんな人におすすめ
  • 先端技術を活用した現場改善の実証・共同研究等を検討している企業
  • スマートファクトリーやDX推進のための実証の場を保有している製造・物流事業者
  • デジタルツイン関連技術の開発、産業用ロボット開発等をしている企業

現在、日本の製造・物流現場が直面している人材不足や効率化の課題。それを解決する鍵となるのが、「デジタルツイン」です。デジタルツインとは、実際の作業環境やプロセスをデジタル空間に正確に再現することで、運用改善に向けたシミュレーションや最適化のリードタイム、コストの削減を可能にする技術。
2025年2月、DNPと株式会社iPX(以下、iPX)は製造・物流分野のDX(デジタルトランスフォーメーション)におけるデジタルツインの活用に向けた資本業務提携を締結しました。両社の連携の経緯や取り組みの現状、展望について、キーパーソンである三者が対談を行いました。


対談者

  • 株式会社iPX 代表取締役社長 幸田高人 氏 (写真中央)
  • DNP マーケティング本部未来社会デザインユニット投資企画部 中村洸二朗 (写真左)
  • DNP ABセンター事業開発ユニット事業企画部ビジネスデザイングループ 外村大介 (写真右)

Q:日本の製造・物流分野が直面している課題について、お聞かせください

幸田(iPX):設立以来、自動車メーカーの車両開発の支援を行ってきた私たちiPXは、そこで求められる「認知・判断・制御」の三要素に関わる広範な技術を獲得してきました。そこで実感しているのは、日本の製造業のIT活用が海外に比べて遅れているという点です。
根本的な問題は、企業内の「サイロ型」組織構造(※)にあると思います。調達部門、設計部門、製造部門など各部門が閉じた形でデータを扱い、部門間でデータが途切れてしまう。結果的に、部分最適を繰り返すのみで企業としての全体最適の検討が置き去りになっています。

※サイロ型組織構造…企業内の組織が縦割り構造になってシステムや部門が分断され、部門間の連携が取りにくい状態

中村(DNP):自ら製造業の一員でもあるDNPとしては、労働人口減少による人材不足への対応は最優先課題だと考えています。少ない人手でも効率的に生産を行うために、業務の省人化・自動化への移行が重要ですが、海外ではいち早くAIやシミュレーションを積極的に活用して生産体制を変革している事例を目にします。当然、日本企業も競争力維持のためにそうした取り組みを加速する必要があると考えています。

外村(DNP):多くの企業が、DXの手前の「デジタル化」にも多くの課題を抱えているように思えます。例えば、熟練の技術者の経験に基づき意思決定を行っていたり、人によるアナログな作業が中心となっているため、現場のデータが十分に収集できていなかったり、作業のプロセスやKPIの可視化に悩んでいるという課題を耳にすることが多くあります。

Q:DNPとiPXが協業に至った経緯を教えていただけますか?

中村(DNP):展示会でiPXさんを知り、お互いのソリューションについて話し合ううちに、一緒に何かできるのではないかという機運が生まれました。iPXさんから「本格的にサービスを開発していくために強固に連携しましょう」というお声がけをいただき、出資を含めた事業連携が実現したという経緯です。

幸田(iPX):当時は、車両開発の支援事業で学んだことが製造現場や物流にも応用できる、という確信を持って動き始めていました。ちょうどそのタイミングでDNPさんとお話する機会をいただき、連携の運びとなりました。最初はDXという広いキーワードで話していましたが、DXは人によって解釈が異なる言葉でもあります。より焦点を明確にするために「デジタルツイン」というテーマに絞っていきました。

外村(DNP):DNPは製造業として幅広い領域でモノづくりを行っています。社内には製造ライン設計や現場改善などの知見を持つ技術者も多く在籍しており、そうしたノウハウをもとにサービスを開発し、社外に提供してきた事例も多く存在します。また、私が所属するABセンターでは、ICTを活用した新規事業開発やR&Dを推進しています。 一例として、組合せ最適化問題を高速で処理する「DNPアニーリング・ソフトウェア」を社内の技術者が開発し、2021年から提供を開始しています。 現在はこのソフトウェアを活用して製造・物流現場の作業計画を高速で計算し、最適化するアプリケーションの開発を進めており、社内で実証実験を進めています。

「DNPアニーリング・ソフトウェア」について

そうした取り組みの中でiPXさんと議論を重ねるうち、「デジタルツイン」というキーワードが今後の事業開発の軸となるワードとしてすとんと腹落ちしました。絶妙なタイミングで、この機会をいただけたと感じています。

Q:「デジタルツイン」という言葉は最近よく聞かれるようになっていますが、両社が考えるデジタルツインとはどのようなものですか?

中村(DNP):現場で何が起きているかのデータを常に取得・再現し、リアルタイムに近い形で検証できる環境。これがデジタルツインと呼ばれる世界観だと考えています。
製造や物流の世界においては、将来的に高いレベルで自動化・無人化された状態の工場や倉庫が出てくると思います。そのとき、現在は熟練作業者が行っている状況判断や細かい調整をロボットに任せる必要があり、作業の安全性と正確性を確保するためには事前のシミュレーションが欠かせません。そこで、デジタルツインは欠かせないツールになると捉えています。

幸田(iPX):そもそもDXとは何か?というところからお話させていただきたいのですが、これまでのITシステムは「リアルが正で、デジタルはそれを便利にするツール」という前提でした。ERP(※)、WMS(※)といったシステムはすべて、“現実世界を便利にする”ためのものです。

※ERP…Enterprise Resource Planning(企業資源計画)の略称で、企業の持つ様々な資源や業務プロセスを統合的に管理するための基幹システム

※WMS…Warehouse Management System(倉庫管理システム)の略称で、物流倉庫や配送センターにおける在庫管理や物流業務を効率化するためのシステム

しかし本来のDXとは、この主従関係を逆転させることだと思います。制約のないデジタル空間で最適解を見出し、それをリアル(現実)に実装する。これができれば経営者は「観測された最高の結果」を追求できるようになります。つまり、「デジタル上でこういう結果が観測されたので、現場はこれを必ず達成しなさい」と指示できる。これこそが“脱・部分最適のプロアクティブな経営”であり、デジタルツインはそこへ到達するための必須プラットフォームなのだと認識しています。

デジタルツインが実現するプロアクティブ経営

Q:そのようなデジタルツインを実現する上での課題は何でしょうか?

幸田(iPX):まずはデジタルツインの価値を広く理解してもらうことでしょうか。そのためには、地道な啓蒙活動と具体的な成功事例の創出が不可欠だと考えます。
技術的な面においては、人間と機械の違いを理解することが重要です。人間は非常に高度なシステムなので、機械に人間と同じことをさせようとするなら、ミリ秒単位の細かさが求められます。これは、人命を乗せて運ぶ「車両」の開発支援事業から得た知見でもあります。

とはいえ、知見や技術のすべてを自社で賄うことはできません。DNPさんのように様々な領域で事業を展開する企業が持つ知見や技術を集約できれば、より精度の高いデジタルツインが実現できると期待しています。

外村(DNP):先ほどもお話しましたが、現場の中でデジタルツインを構築するためのデータを取得したり、取得したデータを加工・整理したりする点が課題になってくると考えます。データがなければシミュレーションも最適化もできないため、現場の負担なくデータを取得し、業務プロセスを可視化するところから支援できるようなサービスを設計していければと考えています。

Q:両社の協業によるデジタルツイン実現の取り組みについて、進捗を教えてください。

外村(DNP):協業は始まったばかりですが、まずは私たちが顧客となり、社内の製造現場でiPXさんのサービスを使ってみるところから開始しました。
昨年は、iPXさんの「LogiUp(ロジアップ)」というシミュレーションレポートサービスを使って、AGV(無人搬送車)の経路変更やタスク量変更によって搬送能力がどれだけ向上するかというシミュレーションを行いました。この取り組みでは、弊社の現場情報を0からキャッチアップされたiPXさんが熟練技術者に引けを取らないシミュレーション結果を短期間で導かれ、数値的にも精度の高いレポートをご提示いただいた点に驚きました。
今後も引き続き、社内や関連会社の現場での取り組みを予定しています。

シミュレーションレポートサービス「LogiUp(ロジアップ)」について

LogiUp(ロジアップ)で、DNP工場内のAGVの走行経路別の搬送能力を検証した様子

また、資本提携のリリースをきっかけに社外からもお問い合わせをいただいており、iPXさんと一緒に社外のお客様へ訪問する機会も徐々に増えています。そうした機会を通じて様々な課題やニーズを収集し、お客様から求められるデジタルツインサービスの実現に向けて解像度を上げていければと考えています。

Q:デジタルツインを活用したサービスの将来像についてお聞かせください

幸田(iPX):私たちが現在イメージしているゴールは、デジタルツインプラットフォームをSaaSとして提供することです。
主な機能は、①シミュレーション、②最適化、③リアルタイムモニタリングの3つ。これを安価で広範に利用いただけるようにしたいと考えています。

同時に、企業の理解を得るための啓蒙活動も必要です。例えば、「ソフトウェア・ディファインド・ビークル(SDV)」という言葉が新しい車のコンセプトを表し、異なる業界にも「ソフトウェア・ディファインド・ファクトリー」や「ソフトウェア・ディファインド・ロジスティクス」といった言葉を産みながら派生していったように、デジタルツインプラットフォームの価値を端的に表すキーワードを打ち出したいですね。DNPさんはこうした象徴的なキーワードを発表することで耳目を集められる立場にあると思いますので、大いに期待しています。

中村(DNP): デジタルツインという世界は、注目が高まっているものの、これから確立されていく新しい市場だと捉えています。試行錯誤を通じてさらに拡大していくものだと思いますので、iPXさんとDNPのシナジーを活かしながら、5年先、10年先を見据えてマーケットを創出するアプローチを続けていければと考えています。

Q:マーケット創出において重視していることは何ですか?

幸田(iPX):私はマーケットを確立するための三原則があると考えています。①模倣困難性、②先見性、③組織である、この3つです。
シミュレーションをサービスとして利用するという市場は、今までありそうでなかったものです。物流コンサルタントが内部的にシミュレーターを使うことはあっても、シミュレーション自体をサービスとして提供するビジネスはほとんどありませんでした。
また、クラウドネイティブなシミュレーターも、開発は進んでいますが実用レベルで広く普及した製品はまだ少ないのが現状です。こうした先見性のある未開拓の分野に私たちは挑戦しているのです。
ただ、最近は国内でも海外でも大手のプレイヤーが胎動しつつあります。複数の組織が競い合うことはマーケットの醸成によい影響を与えると思いますが、DNPさんとiPXがリーディングカンパニーであり続けるためには、スピード感が今後ますます重要になってくるでしょう。

外村(DNP): DNPとしては、まず普及啓蒙フェーズにおける先導役を担わねばと考えています。
「デジタルツイン」という言葉自体は最近よく聞かれるようになりましたが、現場レベルではまだ「興味はあるが具体的には……」という段階です。
私たちが幅広い領域のお客様にデジタルツインの活用事例や有効性をご紹介し、具体的な改善事例を創出していく。また、社内での先行事例を通じて成果を実証していく。この両輪で、マーケット創出に貢献していきたいと思っています。

中村(DNP):幸田さんが言われたように、現場が正ではなくデジタルが正という視点は、今後より重要になってくると思います。
また、DNPは製造・物流分野だけでなく、XRコミュニケーション®の領域でも実際の都市や施設のデジタルツイン空間の制作や、アバターの認証情報・資格情報の管理に関する仕組み作りなどに取り組んでいます。
様々な領域でデジタルツインの可能性を追求し、社会に実装していくことで、新たな価値を社会に還元していきたいと考えています。

* DNPのXRコミュニケーション事業について

Q:最後に、今後の展望をお聞かせください

幸田(iPX):人材不足は一つの入口であり、新しい経営モデルへの移行のチャンスでもあります。同一製品を無限に作り続けるなら、人間よりも機械の方が断然効率的です。雇用のあり方自体を見直す契機になるかもしれません。
つまり、私たちは今、マーケットを生み出す千載一遇のチャンスに直面しているとも言えます。この機を逃さず、日本の製造・物流現場に変革をもたらすデジタルツインプラットフォームの確立を迅速に推し進めていくつもりです。

中村(DNP):デジタルツインは単なる業務効率化ではなく、日本の製造・物流業の競争力を再構築する大規模な取り組みになると思います。大きな目標ではありますが、iPXさんの技術力と私たちDNPの幅広い業界知見・顧客基盤を掛け合わせることで、その変革を先導するようなチャレンジができると信じています。今後も高い視座と行動力で、新たな未来を切り拓いていきたいと考えています。

株式会社iPXについて
※2025年3月31日時点の情報です
※記載されている会社名・ロゴは、各社の商標または登録商標です


今回は各社のキーパーソンから、資本業務提携に至るまでの経緯や取り組みの現状、DXやデジタルツインのあり方、今後の展望まで幅広くお話を伺うことができました。今後もDNPのオープンイノベーションに関する情報を発信していきますので、ぜひご注目ください!

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