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2023.4.03
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産学共創で再生紙のイノベーションが生まれた「再生紙と暮らす」展にかけるそれぞれの思いとは

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左から学校法人武蔵野美術大学・若杉浩一氏、株式会社良品計画・大友聡氏、株式会社DNPエスピーイノベーション・村上浩氏


【この記事はこんな人におすすめ】

  • サスティナブルな事業・取組みについて知りたい
  • 地域活性化について興味がある
  • 産学共創や企業間共創に取組みたい

東京・市谷 に拠点を持つ大日本印刷株式会社、学校法人武蔵野美術大学 、株式会社良品計画が、市谷地域にある魅力の再発見 やさらなる活性化を目指し、産学共創の取組みを開始しました。第1弾として2023年1月20日(金)〜22日(日)の3日間「つながる楽しい楽市」を開催しました。また、イベントの一環としてオープンイノベーションの拠点「DNPプラザ」では2023年4月22 日まで 企画展「再生紙と暮らす」を開催 しています。

今回は「再生紙と暮らす」展の各責任者である株式会社DNPエスピーイノベーション SPビジネス本部企画開発部部長・村上浩氏、株式会社良品計画 生活雑貨部プロダクトデザイン課長・大友聡氏、学校法人武蔵野美術大学 ソーシャルクリエイティブ研究所所長・若杉浩一氏から、共創のいきさつやイベントについて、 また、今後 の展望などをお伺いします。

 

左から株式会社DNPエスピーイノベーション・村上浩氏、株式会社良品計画・大友聡氏、学校法人武蔵野美術大学・若杉浩一氏

左から株式会社DNPエスピーイノベーション・村上浩氏、株式会社良品計画・大友聡氏、学校法人武蔵野美術大学・若杉浩一氏

 

市谷に拠点をもつ3者が「再生紙」をテーマに共創

-3者が共創し「再生紙と暮らす」展を開催したいきさつを教えてください。

村上:2023年1月20日は「MUJIcom武蔵野美術大学市ヶ谷キャンパス」 のリニューアルオープン日であり、武蔵野美術大学の卒業制作展の開催日でした。また、同月は「DNPプラザ」開館10周年の節目であることから、2023年1月20日をメモリアルデーとし、我々 3者の拠点となる市谷 に住む生活者のみなさまと交流する機会として「つながる楽しい楽市」を開催することが決まりました。

楽市のイベントの一環として実施している、「再生紙と暮らす」展はDNPプラザで4月22 日まで展示中です 。3者 の若手クリエイターを中心に再生紙を扱った造形を具現化するというテーマで企画しました。エクステリアデザインは若杉先生、インテリアデザインは大友さんを中心とする良品計画が担当し、DNPは若手クリエイターがインテリアデザインに参加し 、再生紙のボード(板紙)の製造を担いました。

DNPエスピーイノベーション村上氏

-どのような視点で、再生紙をテーマに選ばれたのでしょうか。

大友:無印良品はノートなどの商品製造の過程で端材が出るため、 活用法を考えていました。また、DNPは長年、印刷業に携わっており、共通点のある「紙」を素材として利用することになりました。製造過程で生まれた紙の端材をDNPの技術でボードやブロックに加工し、ロングライフを目指す空間を若杉先生のご協力のもとつくり 上げました。

廃材をボードに再生事例

若杉:今回は武蔵野美術大学の学生とDNPの若手クリエイターが一緒にリサイクル素材を活用し制作を試みました。実はダンボールを使ったインテリアはすでに商品として存在しています。ただ、紙という性質上、壊れやすく刹那的なイメージがあり、デザイン自体もその性質に起因したものが多いです。僕は生活の場で長く使える建築素材として再生紙を使う覚悟を決めることで面白いものが生まれ、未来に向けてなにか可能性が見えてくるのかもしれないと考えながらプロジェクトに取り組みました。

 

3者それぞれの強みと個性を活かした「再生紙と暮らす」展

-今回の展示に向けて、どのようにプロジェクトを進行されたのでしょうか。

武蔵野美術大学 若杉教授

若杉:3者初となる取組みなので、まずは我々が持つ技術や表現を共創してアウトプットすることを目指しました。みなさん普段の仕事もあったので大変だったと思います。大学では卒業制作展と時期がかぶりましたし、DNPも普段の業務がある。良品計画も商品開発で忙しいはずです。しかし、いまの社会は“一人一役”の活動では機能しなくなっています。我々が率先して新たな役割・活動を進めることで、地域の方たちも新しい役割を担うムーブメントが起き、面白いものが生まれると信じています。

大友:一番苦労したのは最初のコンセプト設計です。準備期間の半分ほどを費やしました。DNPはtoBの領域でインフラに近い事業を展開する企業で、僕たち良品計画はtoCの暮らしをデザインする企業、若杉先生率いる武蔵野美術大学のチームはメンバーそれぞれが個性の強いクリエイター集団です。もともとは同じ素材を使用し3者それぞれの作品を展示する構想でした。しかし、独立した創作活動ではなく、3者それぞれの個性が混じり合うことにクリエイティブのヒントがあり、想像を超えるものができるのではないかと思い、3者が協力してひとつの作品を制作することになりました。展示の方向性が決まってから制作のスピードは一気に加速していきましたね。

 

-3者の取組みだからこそ実現できたことはありますか。

株式会社良品計画 大友氏

大友:良品計画はファブレス企業です。今回はDNPが再生紙の製造エンジニアリングの役割を担い、良品計画の端材をボードやブロックに制作したことが、プロジェクトにとって大きな役割を果たしていたと思います。

村上:展示のアイディアはDNPだけでは考えられなかったものです。3者共創だからこそ生まれたと感じています。また、コンセプトが決まってからのみなさんのスピード感には感服しました。DNPの若手クリエイターにもとても良い刺激となりました。

-今回のプロジェクトは市谷の生活者のみなさんとの交流も大切な要素だと感じます。取組みを通じて地域の方からどのような反応を得られましたか。

若杉:地域の方たちがイベント参加後にDNPプラザやMUJIcom武蔵野美術大学市ヶ谷店に訪れてくださっています。また、イベント後にも交流が続いている方たちもいるようです。商店街の方たちとつながりを持ち、接続点が生まれたのは資産だと思います。新しい社会の価値や未来をつくるためにはひとつの視点だけでは不十分です。ビジネスの延長線上の活動ではなく、横の繋がりに寄り添うことで違うコネクションができ、イノベーションが生まれていきます。もちろん短期間では難しいので、5年、10年と長期的な視点を持つことが大切です。

大友:本日の対談の前にMUJIcom武蔵野美術大学市ヶ谷店に立ち寄りましたが、お客さんがいっぱいで満席でした。もちろん学生の方が多いですが、リニューアルオープン前より、ご高齢の方や市谷の生活者であろう方たちの割合が増えていました。我々の活動が、市谷のみなさんの行動変容のひとつになっていればうれしいです。あとは若杉先生もおっしゃるように、あきらめずやり続けることが大切だと思います。時間はかかりますが、長く続けてカルチャーにしていきたいですね。

DNPエスピーイノベーション 村上氏

村上:DNPとしてはいままで市谷の生活者のみなさんに直接製品やプロトタイプをお見せする機会が少なかったので、非常に価値のあるプロジェクトだと思っています。また、実際にみなさんから感想やご意見をいただくことは、toBの事業ではなかなか得られない体験でしたので、これからも3者の共創を通して生活者との接点を持ち続けていき、プロジェクトをさらに面白いものにしていきたいです。

 

市谷からはじまるまちづくりの今後の展望とは

3者集合写真

-今回の三人のお話をお伺いしていると、市谷と生活者との関わりがキーワードのように思えます。今後は3者でどのような関わり方をしていきたいとお考えでしょうか。

若杉:日本は人口が急激に減少し、いままでの経済と社会が維持できなくなるリスクがあります。行政は行政の仕事、企業は企業の仕事、学生は学びだけというわけでなく、多様な役割を担い新しい市民とならなければいけないと思っています。新しい市民が集まり、新しい働き方やアウトプットをしていくことで未来は形づくられると思います。僕は市谷でみなさんと自立共生できるような社会をつくることがモデルケースとなり、社会全体の課題解決に繋がると思っているので、3者だけでなく市谷も巻き込んだ共同体として新しいものを生み出していきたいですね。

大友:トークイベントで地域の方が「みんなが使える工作室が欲しい」とおっしゃっていました。市谷に集う多世代が気軽に交流できるプラットフォームが欲しいとのことだったのですが、地域のみなさんが利用したいと思える共創の場を3者でつくれると面白いですよね。大切なことは「楽しさ」だと思っています。そういった楽しいインキュベーションの場を次のステップでは考えたいですね。

若杉:いまの日本は街が閉じてしまっていますよね。これからはみなさんで一緒に支え合っていかないといけないと思います。そのためには街を開いてみなさんが社会に参画できるよう繋がりを持ち、それぞれが持っているものを公共化して楽しく街が発展していくこともひとつの道だと思います。

村上:私個人としては市谷を文化都市にしたいです。研究も開発もできる企業や個人が集まり、生活者も巻き込んで全員でいろいろなものを創造できるようなまちづくりがしたいと思っています。市谷のDNPオフィスには1万人以上が日々働いており、我々も市谷の住民です。社員が能動的に市谷の街にアプローチすることで、とてつもないパワーが生まれるのではないでしょうか。ご近所付き合いのように、市谷の企業や教育機関が生活者と自然と関わっていくときのハブになるような企業でありたいですね。

 


産学共創、サスティナブル、地域活性化などさまざまな角度から切り取ることができる今回の3者共創「再生紙と暮らす」ですが、取組みの根幹にあるのは未来を良くするために楽しみながら粘り強くチャレンジしたいという共通の思いです。
本記事をお読みいただき、本取組に興味を感じていただいた方、次なるステップへ共創でチャレンジしたい、参画したいと思っていただいた方は是非、コチラからお問合せください。


<取材・編集:多葉田愛/撮影・執筆:三浦えり>