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2022.2.16
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イノベーションの目的とは?私たちの3年間とここからの挑戦

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2022年も始まり早ひと月。オープンイノベーション専門部署として立ち上がったビジネスデザイン本部は、活動開始から3年が過ぎました。当サイト「DNP INNOVATION PORT」も今年で3周年を迎えます。ひとつの節目を迎える今、活動に伴う変化を改めて振り返りながら、これからの私たちはどう在りたいかを考えます。(話:DNP ビジネスデザイン本部 松嶋亮平)

 

共創のノウハウを、社内外に伝播させていく

まず、振り返る際に改めて思ったのは、立ち上げ当初に「DNP INNOVATION PORT」に寄稿した「未来への挑戦」という想いは今も何も変わっていないということです。むしろその思いは更に強くなっているかもしれません。その上で、実際にイノベーションに取り組み走ってきたからこそ、大きく二つの軸で変化を感じています。

一つ目の変化は、私たちの事業開発ノウハウを体系化して、社内外に伝え支援していくというモデルを作り始めていることです。DNPという大きな会社・組織の中でゼロから部署を立ち上げ、主体的にプロジェクトを掲げて走ってきた経験を糧にしながら、最近ではスタートアップ企業との共創だけではなく、大企業同士で新規事業開発に取り組むスキームも確立できるようになりました。競争の枠組みを二社に留まらず、三社、四社と巻き込むことでイノベーションの幅やインパクトは間違いなく広がってきていると感じます。先行きの見えない厳しい事業環境において、新規事業開発は各企業の経営戦略として当然取り組まねばならない活動です。私たちは、新規事業開発に取り組む社内外の組織に我々のノウハウを伝播し支援しながら、これを乗り越える新たな価値を迅速に創出していきたいと考えています。

ところで、私たちが推進している事業開発テーマと、ある企業の開発テーマやビジネスプランがクロスした場合、共創の可能性を感じるわけですが、「今後何か一緒にできたらいいですね」で止まってしまい、一歩も進むことができないことは多々ありました。どのように双方の思惑もクロスさせ共創を実現するのか、については、失敗と経験を繰り返す中でノウハウが蓄積されそれを体系化して思考するうちに、ストレスなく推進していけるようになってきました。これは共創型で新規事業開発を推進する上では非常に重要なポイントといえます。

背景には、多くの失敗があったわけですが、そのおかげで壁に当たった際のピボットの仕方も巧妙になってきており、その場に停滞することなく迅速に次の行動に移すことができるようになっています。たとえば、大企業同士でもスタートアップ企業との複数社の取り組みでも、プロジェクトを始める際に「我々の存在意義や目的は何か」について丁寧に認識を合わせて関係性を構築するようにしています。たとえ1つや2つの取組みがうまくいかなかったとしても、適切に振り返ることで次の取組みへとスムーズに移行します。最初にお互いの関係性と目的意識を明確にした上で進めていくので、一施策や個別テーマに強く引っ張られることはほとんどありません。「社会課題をどう設計し解決していくか」に常にフォーカスしながら、共創型の事業開発を展開できるようになったと思います。

共創イメージ

イノベーション人材の教育価値と課題

もう一つの変化は、イノベーション人材を創出するための教育の価値及びそれを実現するための課題を改めて感じるようになったことです。社内外の多くの人と関わる中で、イノベーション創出におけるマインドセットもそうですが、ビジネス・ICTの観点と、会社・個人双方のレジリエンス・強靭さが必須であることを痛感しました。教育というと若い世代に対して行うことをイメージしがちですが、最も重要なことは企業そのものが変革することであり、あらゆる世代、職位が対象となります。

目に見える現実的な課題を捉えることに慣れ過ぎていると、本当の課題がどこにあるのかを見つけることは困難です。また、課題が設計できてもそれをビジネスの観点で捉えられるかは全く別の話です。デジタルネイティブではない世代であれば、まずICTの発展とその可能性を真正面から受け入れなければなりません。これらに共通して言えるのは、過去の成功体験に捉われず場合によっては切り離すという覚悟であり、未来に向かって成長していくという強い意思表示ということだと思います。このような状況に晒されると、自信喪失に陥ったり、受け入れることを拒絶することもしばしばあるわけで、マインドセットやレジリエンスのある会社・個人であるかどうかが試されます。

 

私たちは、課題を多面的に見る、事業領域に拘らない、未来志向であるなど創造的な観点は常に意識しており、様々な分野の最新情報を入手することに加えて、分析手法にも拘っています。これらのインプットを怠ると途端に致命傷になると考えており、今日までの3年間、海外リサーチも私たち自ら行っています。

リサーチ活動初期は、食や環境、教育など、私たちが手がけるプロジェクトテーマでリサーチをしていましたが、それだけだと私たちで想像できるビジネスモデルしか出てきませんでした。そこで、リサーチする際に軸を少しずつずらすことにしました。具体的には、デジタル化がダイバーシティにどんな影響を及ぼすのか、とあるスタートアップ企業の本当のビジネスの狙いはどこか、日本にローカライズするときのハレーションは何か、ニッチな市場の寡占を狙っていないか、などです。海外のスタートアップ企業や大企業の新規事業開発などを毎月100社以上見ていくうちに、一見するとあまり特徴がないビジネスが、実はビジネスモデルの工夫や巧妙な価値提供方法などによって、他社の追随を許さない状況になっていることも分かるようになりました。課題の感じ方やビジネスの捉え方が明らかに変わってきたことを実感しています。当たり前ですが、ほぼ全ての産業が多重に絡み合っており、そのイメージを常に頭の片隅置いておく必要があります。

 

教育の難しさや現場の課題を実際に痛感した私たちは、教育コンテンツを整備しながら社内外に対してアプローチを始めていますが、いずれにしてもこの教育の難しさは企業変革そのものであるからだと思います。

イノベーション人材教育

ターニングポイントにもなった新型コロナウイルス

部署立ち上げから今日までの変化を、大きく二つの軸で挙げてみましたが、苦境においても取り組みを続けていられるのは、この3年間の厳しい新規事業開発を通じて、組織と個が成長し活動自体を苦しみながらも楽しみ強い意志で活動できているからだと思います。これは非常に重要なポイントです。私たちは「WILL」を大切にして活動することで新しい価値を創出してきましたが、自分でやりたいこと・成し遂げたいことを見つけることができなかったり、見つけることができてもテーマが深堀できない、ビジネスにならない、といった挫折・苦悩は山ほどありました。新型コロナウイルスはこれに追い討ちをかけるような事態だったわけですが、プロジェクトを1つも中止にせずに新たな道筋を描けているのは、不幸中の幸いです。そしてこの新型コロナウイルスこそがターニングポイントだったと言えます。

 

予測できない変化に対して活動を止めざるをえない企業も多い中で、私たちも無関係ではありませんでしたが、時間を無駄にせず、逆に俯瞰的に今できる準備は何かを考え、今までやってきたことを見直して加速するための方法を徹底的に議論しました。今まであまり注力できていなかったことも再考しました。前述した教育はこのときが契機になるわけですが、最終的に目指すことは課題解決であって私たちの存在意義に腹落ちしていれば迷いはほとんどありませんでした。私たちの活動目的を明確にしていれば、壁をどう乗り越えるかについては失敗と成功の繰り返しであり、一喜一憂する必要もないわけです。

今ではたとえテーマ自体にあまり興味がなかったとしても、どう解決できるか、どんなアプローチがあるのか、謎解きゲームのように楽しんで取り組めるようになっています。

 

DXやSDGsの本質を考え、イノベーションに挑戦していく

これらの変化を踏まえて、今後私たちがどのように取り組むべきかを考えてみたいと思います。

まずイノベーションに取り組む私たちは、「DX」、「SDGs」を正しく認識しその関係性も含めて正しく理解すべきです。ここ数年で耳にしない日はないDXやSDGsですが、その使い方に”エセ”を感じることも正直増えました。企業が単なる標語として使ったり、取り組みをPRするための材料になっていることは残念ながら否定できません。実際になぜDXやSDGsに取り組むのか、と問われると明確に答えられる人は少ないのではないでしょうか。

DXの目的は企業の人件費削減・業務効率化、変化への適応・働き方改革・BCP、あるいはビジネス変革に留まるものではありません。既にCX(顧客体験価値)の同質化は顕著である今、企業は自らの存在意義を明確にしてSDGsのように途方もない課題・目標を捉えて大きな問題に立ち向かっていかなければなりません。DXを企業の生き残り戦略として捉えることは決して間違ってはいないと思いますが、企業が存続しても、持続可能な社会でなければ、誰も幸せではなくDXの意味もありません。コロナパンデミックは想定外のことが現実に起きる、とういことを私たちに突きつけました。社会も環境も地球もいつ何がどうなるかは分かりませんが、その準備が必要ということでありその1つがDXだと思います。

コロナパンデミックによって社会は断絶と変革が加速し、多くの企業がDXやSDGsを唱え取り組んでいます。だからこそ、私たちはDXやSDGsの本質は何かを捉え、イノベーションと紐付けて共創型で新規事業開発に取り組んでいくべきだと考えています。企業の存在意義をDXやSDGsを通して再認識することで、目の前の課題に対して進むべき一歩は変化し新しいものになるはずです。そのとき私たちの活動や挑戦が様々な企業のイノベーションの兆しになるのであれば幸いです。

事業開発において立ちはだかる課題・目標